この「感情労働」とは、まさに感情を切り売りする仕事のことで、当時のアメリカの先進的な航空会社のCAの働き方が「感情労働」になってきていることが指摘されました。日本ではCAはステータスの高い仕事のように思われていますが、海外ではCAは非常に不安定な、環境の悪いサービス労働のイメージが強い仕事でした。そして、実際にCAの労働モラルも低かったのです。
ところが、ある時期から航空会社は自社のサービスの価値を高めるために、CAに対してサービスの対価以上の「感情」を売るような教育をはじめたのです。たとえば、顧客がまるで家に帰ってきたような気持ちで飛行機に乗れるように、笑顔でサービスをすることを指導され、また強制されるようにもなりました。こうしたサービスは結果的に「マニュアルに頼らず、従業員が自発的に判断してお客様のために動く」ことを理想化します。
日本企業型の採用手法はアマゾンでも
そして、高度なホワイトカラーを中心に、お金を払ったぶんしか働かない、契約書に書いていないことはしないといった「ジョブ型雇用」ではなく、給料以上に会社に貢献する働き方をいかにして導入するかという議論が盛んになっていきました。
たとえば、デビッド・シロタらの著書『熱狂する社員』では、アメリカ同時多発テロの直後に会社に出社してくる社員を高く評価していて、まるで「日本企業?」と思うほど。いまの日本なら「〈やりがい〉の搾取」(※)と言われかねないような、給料以上に会社に貢献する仕事や働き方が、アメリカでは80年代から90年代にかけて企業の大きな価値を生む源泉だとみなされるようになっていったのです。