「人材確保のため」は言い訳ではないか
この「毎月勤労統計調査」は今年の初めに発覚した「不正統計」で大きな問題になったもので、統計対象企業の入れ替えなどの影響が大きい。
その後、政府は、過去からの時系列の変化を見るには統計数字は不適切だとして、集計対象を共通の事業所だけにした「参考値」を公表してきた。何とか、給与が増えているということを数字で示したかったのだろう。
その「共通事業所」の現金給与総額は、政府が数字を公表した2017年8月以降、ずっとプラスが続いてきたのだが、ついに2019年7月には、このデータでも0.9%減とマイナスになった。どうやら、民間の給与は増加が止まり、再びマイナスになり始めているのだ。
それを横目に公務員給与引き上げを決めた人事院もさすがに後ろめたさを感じたのだろうか。「初任給及び若年層について俸給月額を引き上げることとしました」とし、30歳代半ばまでの月給は平均0.1%引き上げるものの、それ以上の年代では据え置くとしたのだ。人事院は「民間が若年層への配分を増やす中で、人材確保のために初任給などを引き上げた」と説明しているが、苦し紛れの言い訳だろう。
有能な若手人材ほど「今の高い報酬」を求める
確かに、少子化による働き手の不足によって公務員でも若手の人材確保が難しくなっているのは事実だ。かつて、東京大学法学部を卒業したエリートは霞が関に就職するというのが当たり前だったが、今やトップ人材は官僚にならない。外資系のコンサルティング・ファームや金融機関などが就職先として人気だが、いずれも若いうちから高給が支払われる。また、霞が関の各省庁に就職しても、数年で辞めていく若手公務員が少なくない。期待と現実のギャップで2~3年で辞めるのならともかく、7~8年たってこれから働き盛りという年頃で辞めていく人が少なくない。中堅・若手の相次ぐ退職に各省庁は頭を悩ませている。
そのひとつの理由が、仕事量に給与が見合っていないことだと言われる。公務員の俸給制度は勤続年数に重点が置かれているため、若手の給与は低い。その代わり、基本的にクビになることはないし、将来にわたって収入が増えていくので「安定」しているというわけだ。だが、民間企業の間でも終身雇用が崩れつつある中で、将来にわたる安定を求め、「今は苦しくても将来は安泰だ」と考える若者は着実に減っている。とくに有能な人財ほど、将来よりも今の高い報酬に惹かれる。人手不足が深刻化する中で、霞が関は有能な若手人材の草刈り場になっている。
雀の涙のような引き上げでは不十分
本当に人事院が、有能な若手人材の確保を狙うのならば、雀の涙のような賃金引上げで効果があると考えるのは不十分だろう。
実は、自民党の行政改革推進本部が、「公務員制度改革の徹底について」という意見書を2019年3月8日に出している。そこでは、2008年の公務員制度改革基本法に明記されながら、いまだに実現していない改革を早急に実行することを求めているのだが、その柱が、能力・実績主義の徹底による若手官僚の抜擢の仕組みの導入なのだ。