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「ヤフー」も脱ぎ捨てる? ラインと統合、ウェブ覇者ならではの流儀 (1/2ページ)

秋月涼佑
秋月涼佑

 ポータルサイト「Yahoo! Japan(ヤフージャパン)」を運営するヤフーとLINE(ライン) の経営統合のニュースは衝撃的でした。日本市場で、片や最大級のポータルサイトの地位を押さえるネット時代の覇者。一方のLINEは事実上メッセージアプリのデファクトスタンダードを確立した王者。栄枯盛衰の激しいネットサービスの世界で覇権を獲得した強者同士が手を組んだことは、そのスケールの大きさを含めて激震と言ってよいインパクトがありました。

 ヤフーの事実上のオーナーでもあるソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は、若い頃二つの単語カードを持ち歩き、まったく異質な言葉が記載された単語カードをランダムにめくり突き合わせ、その組み合わせから何らか斬新なビジネスアイデアが生まれないか検討することを日課として自らに課していたとの話を聞いたことがあります。そんな孫氏からすればこの統合作戦はむしろ驚くに値しないものであるかもしれませんが、出資する米共有オフィスWeWork(ウィーワーク)の運営会社が経営悪化で企業価値を損なった問題などでソフトバンクグループとして大きな損を出しながらも勝負に打って出ることができる資本力含めたリソースパワーはさすがという他ありません。

 パソコン時代の覇者Yahoo! Japanによるスマホ時代の若年層接点強化の戦略であるとかQR決済の覇権戦略である等、多くの専門家による解説がされておりそれぞれ興味深いものですが、本稿ではブランディング戦略の視点でこの統合を検討してみたいと思います。

 企業HP制作コンペに異業種10社

 孫氏が創業期の米Yahoo!の将来性に目をつけて、創業者のジェリー・ヤンとデビッド・ファイロに「このカネを受け取れ、さもないと競合に出資するぞ!」と啖呵をきって出資した豪快な逸話はもはや現代の神話です。

 米Yahoo!からサービスの日本での運営権を獲得したヤフーのYahoo! Japanはネット時代不動のポータルサイトとしての地位を獲得し今に至りますが、本家米Yahoo!はGoogle(グーグル)やFacebook(フェイスブック)との競争に敗れもはや会社自体が存在しません。

 そんな激しい競争の社会で日本市場だけとは言え、絶対的な地位を確立したヤフーの存在感はやはり圧倒的と言う他ありません。

 私個人は一つの原風景があります。ちょうど2000年をちょっと過ぎた頃でしょうか、ようやくネット接続もまずまずストレスなく行われる環境になった時期、各企業もようやく企業ホームページ(HP)を本格的に整備しようという機運が起きてきました(それまでは申し訳程度のサイトが多かったように思います)。当時私が担当していた某大手クライアントからも、自社ホームページ制作構築のいわゆるコンペのお声がけがありました。広告会社が参加するコンペは通常同業2、3社が呼ばれるケースがほとんどなのですが、その時はなんと10社コンペ。しかもおなじみの同業数社の他、リクルートや富士通、CSK(当時)、野村総研など普段お目にかからない企業にも声がかかっていたのです。発注する方も受注する方も手探り、私自身提案内容を詰めるのに四苦八苦した記憶があります。そうなんです、ネット本格普及期の前夜、どんなビジネスマンも企業もこれからネット時代になるという認識は持っていたものの、まだまだ定型的なスキームもましてイニシアチブを誰がどう握るのかもまったく何も定まっていない時代が確かにあったのです。

 ポータルサイトの地位をヤフーが確立した瞬間

 ポータルサイトの地位を見れば、そんな時代において本来一番近い場所にいたのは間違いなく大手全国紙各社であったと思います。テキストメディア企業としての事業規模の大きさ、記事のクオリティ、速報性、信頼感、ステータス。何をとっても匹敵する存在はなかったと思いますが、結果ポータルの地位はヤフーに奪われました。時間もたちその時期のいきさつも明らかになりつつありますが、孫氏がここでも全国紙トップに直談判し相当な条件提示で実質的に新聞社をポータルサイトYahoo! Japanのティア2に押し込めてしまったメルクマールもあったようです(新聞業界は孫正義に“とどめ”をさされた:『2050年のメディア』新田 哲史)。

 振り返るに、ビジョナリーとしての孫氏の経営戦略の冴えを見せた瞬間であったと言う他ありません。

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