最初の決断のあと、「思い通りではなかった」というBAD STORYから「じゃあ次はどうする?」という準備をいかにできるか。言い換えると、最初にどのような選択肢を選び、どのような結果になってもその後に「成功だ」と言える段階にまで引き上げる力のほうが大事です。これは現実的な実務を進める能力です。最初の選択の際にすべてを見通して、最高の一手を考えるなど予言者になろうとしているようなものです。
2. 「小さく試す」工夫をする
- 「実際に転職する」という大きなステップの前に、新しい仕事や職場を知ることはできないか
- 新しい製品に大きな資金をかける前に簡単な試作品を作れないか
- 大々的に発表する前に、友人やSNSで反響を知ることはできないか
いかにコストをかけずに擬似体験やお試しをするかということは「決める」技術のなかで最も重要なものです。これらは「スモールスタート」や「リーンスタートアップ」などと言われています。外部から見ると「非常に良さそうな大きな決断」に見えますが、その裏では、「小さな決断による情報収集」で成功の精度を高めているのです。
ある話題の製品のニューモデルの「試作品」のデザインがSNSで流出するということが時々あります。すべてとは言いませんが、意図的に試作段階で流出させ、SNS上の反響をみて、実際にどのデザインでローンチするかというのを決めている企業は少なくありません。公式発表後に悪評を受けるのに比べ、公式ではない「流出」によって、すさまじい数のユーザーの評価を収集できる。そして、しれっと評価の低いものはなかったことにできる。なんとリスクもコストも低いテストなのでしょうか。「流出」というキーワードで話題性も抜群です。
「あの大きな決断がうまくいかなければ倒産していた」なんていう武勇伝は読書だけに留めておきましょう。そのような決断をする企業は2、3回目の決断で必ず倒産します。「社運を賭けた」というのは、あくまで耳目を引くための「盛ってる」表現にすぎないのです。
「決める力」とは
決める力のある人は「よい選択をする」ことができる、つまり予言能力が高いのではなく
- ・「小さく試す」ことで有益な情報を集めている
- ・「決めたあと」に発生するBAD STORYへの対策ができている
という決断前後の準備能力が高いのです。そして、「決断」自体の重要性を軽減しているのです。これこそ「決める力」の正体なのです。
次回は「決める技術」の第2回として、「相手にどのように判断されるかこわくて決められない」を克服するコツを取り上げます。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら