ローカリゼーションマップ

倫理性に乏しいビジネスへ再考を促す「美」 デザイン文化の聖地が問う (2/2ページ)

安西洋之
安西洋之

 しかしながら審美性を軽視したデザインが、「感動」や「ネットワーキング」、あるいは「品質」と断絶を生みやすいことに、一部の人たちは気づき始めている。

 もう一つは「美」が倫理性との関係で問われている、ということを背景にしている。強欲なビジネスは世界のサスティナビリティを阻害する。倫理性に乏しいビジネスへ再考を促すに「美」は必須である。真・美・善はすべて揃うことに意義がある。このような考え方が主流になることを望んでいるのだろう。

 社会のあり方を問う

 ミラノサローネのマニフェストは、実はデザイン文化とは何かを語っている、とぼくは解釈する。デザイン文化は、ビジネスの文脈でデザインを重視するだけでなく、社会のあり方そのものを問うている。その事例がバルト三国のリトアニアにある。

 数か月前に「リトアニアのデザイン史が教える審美性の価値 自由な社会づくりの礎」とのコラムを書いた。旧ソ連下で国民の1人1人が自由に考える習慣を失ったことで、独立以降も新しい社会づくりに苦労している。そのリトアニアで実施されているデザイン文化の構築の試みについて次のように触れた。

 “カウナスでの実験的な数々の試みの結果見えてきたのは、デザイン文化の普及を図ることで、1人1人が「自分自身への自信や信頼」を獲得できたことだ。しかも、このプロセスにおいて、いわゆるデザインのスタイリング(カタチや色)の部分に接することや「デザインを実感できる空間」が鍵であるとの確認もとれた。”

 つまり、ミラノサローネを核にしたミラノ・デザインウィークは、デザイン文化のモデルとして見ることができる。そして、そのモデルとして考えたとき、リトアニアの実験の例を見るように、「美」は鍵となっているのである。

 「イタリア人は美に拘りが強い」とのコピーを表層的に理解していると、デザイン文化の意味が分からないことになる。ミラノサローネのマニフェストを「ああ、宣伝の一つね」と読み飛ばさない神経が求められる。自戒も込めて、だが。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)
安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
note:https://note.mu/anzaih
Instagram:@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus