ブランドウォッチング

新駅も開業 虎ノ門ヒルズは街ブランディングの新次元を示せるか (2/2ページ)

秋月涼佑
秋月涼佑

 一方で街のブランディングは歴史的にはあくまで自然発生的なものが多かったように思います。「ローマは一日にして成らず」。とても一朝一夕に成立するものではありませんし、富豪でさえ一つの街を丸ごと価値化させることは並大抵ではなかったからです。

 でも近年、民間のデベロッパーが大規模な資本や技術を蓄積し、新しい街の開発を丸ごと担う事例が出てきました。となれば意識的に街のブランディングに取り組むことは、経済合理性からも住民やテナント、事業協力者の満足の視点からもむしろ必須の取り組みに違いありません。

 実際に虎ノ門ヒルズを歩いてみると

 そんな注目の超大規模再開発のブランディングがどんな方向性を示すのか、興味津々に現地を歩き回ってみると、時代の変化もあり六本木ヒルズのひたすらな上昇指向、高級指向、グローバル指向からちょっと目線を下げた開発意図も見え隠れしていて好感がもてます。

 まず、何と言ってもトピックスは交通アクセスの面です。東京メトロ日比谷線の虎ノ門と神谷町の間に「虎ノ門ヒルズ」という新駅をつくってしまったのですから意気込みが分かります。そして何より注目すべきはこの地下鉄とBRT(バス・ラピッド・トランジット)を結ぶ「交通結節機能」としてのバスターミナルが虎ノ門ヒルズビジネスタワー1Fに設置されたことです。

 少子高齢化の中でも東京だけは当面人口増が続く見込みですが、遠からずそんな時代も終わりを告げる見込みです。ましてくしくもアフターコロナの時代を意識せざるを得ない今、ベッドタウンから都心へやみくもに鉄道で大量輸送という高度成長期の発想から決別し、投じる資金の面でも環境負荷や高齢化時代に適したフラットアクセスの面からも、バスでの動線を積極的に取り込む発想は逆に先進的だと感じます。

 そして、これまた意外な施設が先述の新築虎ノ門ヒルズビジネスタワー3Fの「虎ノ門横丁」です。立飲みあり、カウンターありの比較的リーズナブルな26店舗の飲食店が、画一的でどこかよそよそしくなりがちな再開発ビルのつまらなさから一線を画し、すでに数十年使い込んだかのような良い意味でのカジュアルさを演出していて早速大いに賑わっています。

 「新虎通り」は日本のシャンゼリゼ

 もうひとつ注目すべきは、虎ノ門ヒルズが環状2号線の真上に立地していることです。環状2号線はオリンピック会場の有明と虎ノ門を経由し千代田区神田佐久間町を結ぶ道路で、かつて「マッカーサー通り」と呼ばれ密集地を通るがゆえ戦後長年未開通だった基幹道路です。そして実はこの環状2号線、旧都庁も新都庁も設計した建築家にして東京の都市計画のマスタープランナーとも呼べる故丹下健三氏の描いた都市軸のまさに真ん中に位置する、今後東京の背骨となるような象徴的な道路なのです。

 東京都は地下を走る環状2号線の地上部の虎ノ門ヒルズから新橋駅に至る道を「新虎通り」と名付けて、パリのシャンゼリゼ通りにも負けぬ通りにするとの構想をもっています。

 現時点での「新虎通り」は、隣の家屋とくっついていた家の壁が再開発で急に大通りに面して驚いたような様子で、シャンゼリゼの気配はまったくありませんが、そこはこの界隈そぞろ歩きをしてちょっと横道にそれれば、老舗の料理屋もあれば和菓子屋もあり、ちょっと歩けば、賑やかな新橋の飲み屋街というのも素敵です。確かに、世界に誇れるような楽しい街になるポテンシャルをもっていると感じます。

 かつて都心の大規模再開発と言えば、ともするとひたすらに高級、ステータス志向のステレオタイプだったかもしれません。もちろん超都心の一等地、虎ノ門ヒルズとて一角のレジデンスの坪単価1000万円超えという現実はあるのですが、願わくばそんな価値観を超える街のブランディングを提示して欲しいと期待します。

 リモートワークが当たり前になり、バスや自転車で週数回オフィスにくる在勤者が、街中でも打ち合わせや仕事をこなし、アフターファイブにはリーズナブルにスタンディングで一杯飲んで帰る街。地価のヒエラルキーを追求するのではなく、多様な働き方や人種年齢をオープンに受け入れる街となって、都市生活好き日本人の多くに良きインスピレーションを与えて欲しいと思います。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)
秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら

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