キープコンセプトの成功事例
というのも最近同じSUVの世界で、何よりキープコンセプトをアピールした成功事例が注目されています。
メルセデス・ベンツGクラスは、1979年軍用車を民生用にして発売されて以来営々39年間基本骨格を変えないままに販売され続け、ようやく2018年にドアノブと数点の部品以外は新設計という実質的なフルモデルチェンジがなされました。が、なんと見た目は従来車種と限りなく同じデザインが採用されたことで、逆に世界を驚かせました。
また軽オフローダーとして人気のスズキジムニーは、同じく2018年に4代目が先祖返りしたかのようなオフローダーらしいスクエアボディで登場し、グッドデザインベスト100に選ばれるなど、高く評価支持されています。
こんな事例を見ていると、どうしてもパジェロのモデルチェンジの歴史が恨めしく感じてしまうのです。
日本人はとかく新しいモノが好きです。伊勢神宮20年に一度の遷宮などにも表象されますが、「禊ぎの文化」「普請の文化」新しいものを心地よく感じる気質を否定できません。まして機械製品ともなれば新しい技術こそより良いという確信も作用しなおさらです。もちろんそれが日本製品のフレッシュな魅力として世界市場でアピールしてきた部分もあろうかと思いますが、どうもパジェロのケースではモデルチェンジの悪い側面が出てしまったようにも思うのです。
ブランドは”創業以来継ぎ足し秘伝のタレ”
このモデルチェンジの問題を、ブランディングの側面で考えたいと思います。ちょっと変な例えと感じられるかもしれませんが、私はブランドを”創業以来継ぎ足し秘伝のタレ”のようなものとたとえるときがあります。基本は営々何も変わらないし変えもしない。お客さんはその変わらない味に期待してリピートする。
ブランディングにとって一貫性=Consistencyは最優先される概念です。でも、一方で継ぎ足されるフレッシュな成分があるから、毎日鮮度良く食べられる。まして気が利いたお店ならば、年々時代に合わせ隠し味を加えるなどの調整をしているに違いありません。
パジェロのモデルチェンジを振り返ると、ある時点でこの微妙な塩梅を間違えてしまったように思います。どこかでパジェロであれば変えてはいけない一貫性=Consistencyの部分を見失ってしまったように思います。パジェロファンからも「あれ。味変わっちゃった」と思われてしまったのではないでしょうか。
そう考えるとモデルチェンジは新製品をアピールできるというマーケティング上、大きなチャンスを作り出す一方で、大きなリスクも内包しているのです。
例えば、開発に際して行う新製品に向けたユーザー調査やインナーヒアリング。もちろん一般論として、ユーザーや販売店の要望を聞くことは結構なことに間違いありませんが、難しいところはユーザーや販売スタッフは開発者ではありませんから、良かれとそのまま受け入れてしまえば結果として生活者のイメージと製品がかけ離れてしまうことも往々あり得ます。