実は、シルビアは本連載2月に紹介したアレッサンドロ・ビアモンティの教え子である。アルツハイマーの患者が生活しやすい空間とは、どのような環境条件なのか、研究実験を重ねてきた。どうしたら薬に頼ることなく、住環境の条件設定だけで病の進行を抑えられるのか、と。
例えば、アルツハイマーの患者は旅情を感じると、過去のことを思い出しやすくなるという。そこで彼らは、列車のコンパートメントや駅の改札を模した空間を病院の医師たちと設計した。そして患者に使ってもらったら効果があった。
今はヴァーチャル空間を使って同じような試みを図っている。結果は医学の学会で発表する予定だ。「お金持ちのヴィッラの設計よりも、私はこうしたプロジェクトに惹かれる」とシルビアは語る。
ミラノの近郊に生まれ育った彼女は、科学系の高校に通っていた。大学の学科を選ぶ際、少々迷った。エンジニアになるタイプでもない。かといって建築でもない。結果、比較的中間になりそうなインテリアデザインを選んだ。
施工現場の真っただ中にいて動き回っていると幸せだ。だからといって、野外に飛び出てスポーツに熱心な女性ということでもない。
「私は世界で一番怠惰な女性だ」と自慢(!)する。
そのかわり本を読むのは好きだ。ひたすら読書に励む。ふんふんと聞きながら、コラムに仕立てづらいなあと、ぼくは少々考える。