二つ目は、特にお店作りで表現されている部分ですが、簡潔な表現も行き過ぎてしまえば「単調」「冷たい」ものとなってしまいがちです。そこにあえて、対極の有機的な感覚を取り入れることで絶妙にヒューマンスケールな居心地の良さを表現しているのです。
近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエは「Less is more(より少ない表現ほど豊穣)」とミニマリズムの精神を説きましたが、その後ポストモダニズムの潮流が起こり「Less is bore(ストイック過ぎる表現は退屈だ)」と反論されました。
その点「無印良品」は早くから、売り場に意識的に古く使い古されたものだったり、泥臭いものであったりという手触りのある感覚を取り入れてきました。特に、ハイアットホテルグループの世界観を石、金属、木材などの本物の質感で表現したことで有名な故杉本貴志氏率いるスーパーポテトとのコラボレーションは注目を集めました。
そんなアプローチは最新の有明ガーデン店でも存分に表現されていて、あえて古い建物で使われていた建材をディスプレイしたり、「荒物の引き売り(明治時代の行商。荷車で箒、ちりとりなどを売り歩いた)」などのユニークな展示がされていたりで、温かみや意外性に満ちたMUJIワールドを表現しています。
スーパーPB時代から営々とブレなかったブランドコンセプト
「無印良品」が西友のプライベートブランドとしスタートした1977年から十数年は、高度成長を果たした日本が坂のてっぺんにたどり着いた時代でした。当時の西友は、作家としての顔ももつ文化志向の故堤清二氏に率いられる西武セゾングループの一員でした。「おしいい生活」というコピーとともに、ヨーロッパの最高級ブランドやライフスタイルを日本に紹介していた生活文化志向の企業風土の中では、スーパーマーケットのPB(プライベートブランド)はむしろ、地味で脇役的な印象もあったのは否めません。
でも、それを逆手に取り、田中一光氏や原研哉氏など気鋭のクリエイター、プランナーも多く関わり「豪華に引け目を感じることなく誇りをもって簡素であること。」「無駄を省いていくことによって、豪華なものよりもっと素敵に見える。」という強い理念のもと立ち上げた「無印良品」はむしろ時間の経過、時代の変化の中で輝きを増した印象があります。(Visualize the philosophy of MUJI)
今や生活者の百貨店に対する憧れにも似た熱気は冷めてしまい、地方では百貨店の閉店が相次いでいます。象徴的には西武セゾングループがプロデュースした豪華な消費文化の頂点と思えた、全室バトラーサービス付きの東京銀座「ホテル西洋銀座」はあっさりと取り壊され再開発されてしまいました。
そんな時代の変化の中で支持され続けた「無印良品」をみると、失われた20年とも30年とも言われる日本の経済低迷を考えたとしても、結局日本人が選んだ居心地の良いライフスタイルはヨーロッパスタイルの豪華で装飾的なものではなく、簡素にして質実なものだったのかなと思います。