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「理念」や「人脈」はどう引き継ぐか 経営者が抑えるべき事業承継の事前準備 (2/3ページ)

葛谷篤志
葛谷篤志

 後継者が、事業承継をやっとの思いで終わらせた後に、取引先の未締結の契約を見直したり、未入金の企業へ訪問するなどの作業をおこなうことは、事業を推進する際には足かせになってしまいます。「ハード面の承継項目」をしっかり把握することで、集中して後継者に事業を推進してもらうことも、現経営者の役目です。

「ソフト面の承継項目」を引き継ぐための事前準備のしかた

 事業承継の準備において見落としがちなのが、「ソフト面の承継項目」です。

 ソフト面の承継項目は、経営ノウハウや経営理念、経営者の人脈など、長年事業を進めてきた中で培ってきた内容が多く含まれます。経営者の経験や人脈などは、企業ごとに異なるため、数字ではあらわせない競合優位性や企業の価値の一つになります。こういったものは、後継者へ短期的に引き継ぐことは難しく、経営者と後継者が「事業承継」を一緒に進めていく中では、引き継ぐことが難しい分野です。

 ソフト面の承継項目を引き継ぐための事前準備として、「企業の歴史を文字起こしする」という手法があります。

 経営者として、日本の情勢や景気の動向によって変化する時代を乗り越えてきた歴史を文字に起こすことで、改めてこれまでの成功体験や苦労が明文化され、後継者に企業の成長過程が伝わります。

 後継者に当時の成功や苦労を体験してもらうことはできません。しかし、当時の経営者の判断や決断の背景を伝えることで、その知恵やノウハウ、つまりソフト面の承継項目の引き継ぎがしやすくなります。

 また、後継者が決まっている場合、後継者と対話を重ねることが重要です。定量化しにくい経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産)こそ、多くの対話にて後継者に伝えていく必要があるからです。

親族内承継であれば、繰り返しの家族会議が重要

 後継者が決まっていて、且つご子息など家族への「親族内承継」の場合は、ハード面の承継項目もソフト面の承継項目も、「家族会議」をおこなうことで引き継ぎ準備がスムーズに進みます。

 親子関係が多い親族内承継でも「事業承継」が簡単に進む訳ではありません。親族での承継の場合、財産などの金銭のやりとりがより生々しくなり、場合によっては親子関係・人間関係をこじらせてしまう場合も少なくないのです。

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