ビジネスシではスピードが重要ですので、現実問題として、すべてを話し合いで決めるというのは無理だと言えるでしょう。もちろん、重要な決定であれば、それだけの時間を割いて決める価値はありますが、重要でない事柄の場合、誰かが決めてしまって従ってもらう方がいいケースも少なくありません。
《例》
「給湯室の使い方のルールが変わりました。新しいルールをメールしましたので、確認よろしくお願いします」
ここまで、みんなで話し合って決めることは最善とは限らないということを3つの視点からご紹介しました。そうはいっても、自分だけで決めるのがいいとも限らないのは皆さんご存知のとおりです。人の意見を聞くことのメリットと、どうすれば意見を言ってもらいやすくなるのかもご紹介しておきます。
意見を「聞くメリット」と意見を「言ってもらえる関係性」
自分が手一杯になっているときは、見逃しが生じやすい状況です。こんなとき、他の人の意見に助けられるというのは、よくあることです。
《例》
「うわ、データが消えた! 今日までに先方に提出しなければならないのに。これからやり直して間に合うんだろうか…。これから会議の準備もあるのに」
「あ、WORD? だったら最近使った項目のところを見てみれば。たぶん途中までのデータが一時保存されてるよ」
岡目八目(おかめはちもく)という言葉は、「囲碁を打っている人にはわからないが、見ている人には8手先まで見えている」というのが語源です。当事者よりも、第三者の方が正しい判断ができるというのは、ビジネスシーンでも多く見られることです。人と相談して決めるメリットとして、昔から多くの人が感じているのではないでしょうか。
また、人の考えに刺激を受けて、新たなアイデアが浮かぶというのも大きなメリットと言えるでしょう。
《例》
「そうそう、確かにA社のコンセプトで『シンプル+α』というのがあったよね。B社でヒットした××も同じコンセプトだって聞いたことあるな。うちの製品も『シンプル+α』で訴求ポイントを考え直してみたらどうだろう」
自分の考えに自信がないとき、人から同じような考えを聞いて、安心するというのもあります。
《例》
「定性評価はどうかと思っていたけれど、○○さんも同じ考えでよかった。自信を持って提案しよう」
「他の人の意見を聞く」というのは、わざわざ人を集めて話し合う機会を作らなくても可能です。しかし、率直な意見を言ってもらえるような関係性でないと、周りはYESマンばかりになってしまい、大切な意見を取りこぼしてしまいがちです。自分では高圧的な態度をとっているつもりがなくとも、立場が上になっていくと相手が圧を感じやすくなることを認識し、意見を言いやすい雰囲気を作っておくとよいでしょう。
具体的な対策としては、普段から自分から声をかけ、相手の話に耳を傾けるのがお勧めです。用事のないときでも、「挨拶プラスちょっとした雑談」、特に「質問が含まれる会話」をしておきましょう。
《例》
「今日は暖かいね。でも花粉が飛んでる感じがするなぁ。なにかいい花粉対策知ってる?」
相手の話を聞くときはこの3つを守るようにしましょう。
- 意見をすぐに否定しない
- 耳の痛いことにも感謝を伝える
- ネガティブなことを言われても引きずらない
普段から意見を言いやすいようにしておけば、時間のないときに独断で決定をするような場面でも、違和感があれば教えてもらえる可能性が高くなります。
*1 Heath, C., & Gonzalez, R. (1995). Interaction with others increases decision confidence but not decision quality: Evidence against information collection views of interactive decision making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 61(3), 305-326.
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら