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“マスなき時代”の共通体験価値 「一蘭」カップ麺人気を考える (2/3ページ)

秋月涼佑
秋月涼佑

 まず、あらためてパッケージデザインを見ると、まさに一蘭のラーメンどんぶりそのままに例の強烈な一蘭ロゴがドーンと乗っかっています。まさに生活者が一蘭に期待しているものはこの粗削りなインパクトに違いありません。製造所にエースコックの表示がありますので、カップ麺化するにあたって協業したのでしょう。

 さて、“秘伝のたれ”などが入った小袋3包を取り出しいよいよお湯を入れます。なぜかそんな調理ともいえないひと手間が、グッと共犯感を高めるので不思議です。なんでもマジック成功のテクニックのひとつに、全部をマジシャンがやらないで観客がどこかで関与するというものがあるそうですが、まさにお湯を入れただけなのにもはやこの一杯は紛れもなく私の“一蘭”です。考えてみると、一蘭はスープの濃さ、麺の固さなど紙に書いて申告させるオーダーシステムの元祖ということですが、お客さんを心理的に巻き込む手法も大したものだなと、あらためて思いを致しました。

 さて、麺バリカタまではいかないけれどカタめの3分(推奨4分)で箸入れしてみます。お店でのおすすめの食べ方を思い出し、まずは一蘭独自の中心に赤く輝く“秘伝のたれ”を避け周辺からスープを味わいます。確かに、これは一蘭のラーメンだ。最近のコラボ系カップラーメンはどれも再現度が高いですが、さすが20年以上こだわって開発しただけのことはある完成度のような気がします。そうこうするうちに“秘伝のたれ”を少し溶かしつつ麺を食べると。オオッ、あの独特のコシが再現されているような気がします。

 何より、“一蘭”のお店に行くとオーダーシステムがあることを良いことにアレンジ多めのオーダーをしてしまうのも“一蘭”あるあるですが、なるほどこれがお店の食べて欲しかった黄金比なんだと得心した次第です。

 ここまで一連のエンターテインメント性高い食体験と、恐らくこれからことあるごとに話のネタにして盛り上がることを考えれば本当に安いレジャーです。

■コンビニ流通が今や希少なマスメディアへと情報化する時代

 自分自身が感じた楽しさ、ネット上の盛り上がりを含めてしみじみ感じるのが、やはり体験価値に基づくブランディングの重要性です。特に、より多くの人と共有できる体験の価値の高さです。

 年中色々な研究組織から発表される未来予測は、ピンとくるものもあればこないものも多数、ましてそのビジョンがピッタリ当たることは稀なわけですが、1985年博報堂生活総合研究所が発表した「分衆の時代」という予測はまさにその後の長期生活者トレンドを明確に言い当てた歴史的予測だったと感じます。

 もちろん「マス」、「大衆」の時代から、個々人の価値観が多様化し「分衆」へと移行する過程は生活者意識の変化にこそあるわけですが、ネット時代が本格化しメディア環境が劇的に多様化した近年こそまさに本番到来という気がしています。有り体に言えば、一昔前はみんなが同じテレビ番組、新聞紙面を見て、同じ広告を見ていました。

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