フリーランスの進路相談室

混乱を経て格差がひらく? 歴史に学ぶ 2025年に生きるフリーランスの希望 (1/4ページ)

Workship MAGAZINE
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 「2025まで働けますか? フリーランスの進路相談室」では、これまで人生の先輩たちに進路相談をしてきました。

 「フリーランス、家を買う問題」「メンタルご自愛術」「セルフブランディング論」などなど、いろんな角度から相談ができた……と思うのだけれど、なにかが足りない気もする。

 そう、これらすべて、個人の“ミクロな視点”なんです。

 「2025年までフリーランスとしていかに生きていくか」を考えるうえで、もう少し俯瞰した「フリーランスをとりまく社会のしくみ」という “マクロな視点” が欠かせないんじゃないか。

 特に、新型コロナウイルス感染症の影響で社会がゆらぐなかで、これからの社会の見通しをもとにキャリアを考える重要性は高まっているように思います。

 そう考えて会いに行ったのは、歴史社会学者の小熊英二(おぐま・えいじ)さん。 小熊さんは、膨大な資料をもとに日本社会の構造や意識の変化について研究してきた方。

 昨年に発売された『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』では、新卒一括採用や年功序列制度など、じつは世界的に見ても特殊な「日本の雇用」の成り立ちを明らかにしました。

 そんな小熊さんに尋ねたのは、フリーランスをとりまく「社会のしくみ」と、そうした「しくみ」のなかでフリーランスはどう生きていくべきか、という問い。

 大企業に勤める人々を中心につくられてきたしくみが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けても根強く存在し続けるとしたら、フリーランスはどのように生き残っていくことができるのか。その鍵は「誰とどういう関係を築くか」という点にあるということが、進路相談を通じて見えてきました。

 それでは、どうぞ、進路相談室へ。

■フリーランス的な人は、かつての日本にもいた

山中:今日は、フリーランスをとりまく「社会のしくみ」について伺えればと思っています。まず日本には、戦前からフリーランス的な働き方をする人がいたんでしょうか?

小熊:そもそも、なにをもって「フリーランス」というのか、定義が難しいですよね。根本的なことを話すと、人間が仕事をする上での関係は、「雇用」と「請負」に分かれます。つまり、固定された関係の中で仕事をする人、単発の仕事を請け負う人がいる。

山中:なるほど。たとえば同じ工場でも「雇用」されている社員と、「請負」で仕事をしている日雇い労働者がいますね。

小熊:そうですね。広義の「フリーランス」は後者に属するもので、「あるユニット(かたまり)になった仕事を請け負ってる人たち」ということになるでしょう。その形態が個人事業主なのか、派遣なのかはさまざまだと思いますけれど。

そうした「雇用」も「請負」も資本主義が始まる前からありましたけど、賃金労働の起源となるのは後者、つまり「請負」だと言われることが多いです。

山中:そうなんですか?

小熊:ええ。たとえばヨーロッパでは、馬の鞍を作る親方が製作を請け負って、それを職人を集めた工房でつくって謝礼をうけとる、という形が資本主義以前からありました。いわゆる「ギルド」と呼ばれるものです。日本ではヨーロッパほどギルドが一般的ではなかったものの、「請負」で働く人は戦前から存在していました。それが、現代のフリーランスという働き方に直結すると言い切るのは難しいですけども。

山中:戦前の「請負」で働いていた人とは?

小熊:たとえば戦前の会社では、「社員」と呼ばれて会社に長期雇用されているのは、基本的には中等教育以上を受けたホワイトカラーの人たち。一方で大企業でも、中等教育を受けていないブルーカラーの工員は、会社にいても「社員」とは呼ばれなかった。時期や職場によっても違いますが、彼らの働き方は、いまの「請負」に近いものも多かったんです。

山中:いまの派遣社員みたいな感じですね。

小熊:たとえば会社が、親方に「この仕事をやってくれ」と依頼し、親方が5人とか20人とかの職工を集めてきて作業をする。職工にとって親方は絶対的権威で、会社からもらったお金をどう配分するかは親方次第でした。

山中:現代の「フリーランスが集まったギルド」に近いかたちでしょうか。

小熊:そこはなかなか微妙かなとも思いますが、あえて似ていそうな点を挙げると、職工のなかにも「渡職人(わたりしょくにん)」と呼ばれる、非常に腕の立つ人たちがいました。たとえば「旋盤の技術に関しては俺は日本一だ」と思っている人達がいて、その「渡職人」たちはより有利な仕事を求めて、いろんな工場を渡り歩いていたんです。そういう人たちはどの工場に行っても大歓迎されて、高い賃金で働いていましたね。

山中:なるほど。現在でいう、腕の立つフリーランスのエンジニアやライター、デザイナーかもしれない。

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