フリーランスの進路相談室

混乱を経て格差がひらく? 歴史に学ぶ 2025年に生きるフリーランスの希望 (3/4ページ)

Workship MAGAZINE
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■約3割の「大企業型」のためのしくみが維持されてきた

山中:戦後になって現在に近い正社員中心の雇用形態が生まれたことがわかりました。小熊さんは著書『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』のなかで、さらにその後の変化も分析されていますよね。

小熊:そうですね。簡単に説明すると、著書では現代の日本の生き方を「大企業型」「地元型」「残余型」の3類型に分けて説明しました。

山中:「大企業型」が日本社会の多数派だとイメージしがちですが、実はそうではないのですよね。

小熊:そうです。2017年のデータをもとに推計すると、「大企業型」が約26%、「地元型」が約36%、「残余型」が約38%。このうち「大企業型」の割合は1982年から2017年まで、2割強から3割弱で、ほとんど変化がありません。非正規労働者は増えていますが、それは自営業が減ったからで、正社員が減ったからではない。

小熊:ただ、この2割強から3割弱の「大企業型」の人たちを基準に、日本の雇用形態や働き方、社会保障の仕組みがつくられ、それは1970年代はじめに完成し、現在まである程度維持されてきたんです。

山中:いまもその「大企業型」中心の「社会のしくみ」が継続している、と。

小熊:ある意味ではそうです。「大企業型」の人たちにとってみれば、正社員の数も減っていないし、年功序列もある程度は維持されているので、あまり変化を感じない。しかしそれ以外の約7割の人たちにとっては、自営業が減って非正規が増え、地域社会の安定が低下して、貧困が増え、大きな変化がありました。非正規労働者には、企業との安定的な関係性はない。それでも地域社会や家族の関係が安定している人はまだいいですが、どこにも安定的な関係がない人もいる。そういう人は貧困に陥るリスクが比較的高いわけです。

■2025年までに大幅に社会は変わらない

山中:お話を聞くなかで、たしかにフリーランスは定義があいまいで、3つの類型のどこに位置づけるかは難しいなと思いました。でもなんとなく、「大企業型以外の7割」に入りそうですね。だからこそ、現在も社会の仕組みは大企業型の約2~3割の人をもとに決められていると知ると、今後もフリーランスとして生きていくことに不安を感じてしまいます。

 この連載では、超高齢化社会に突入する2025年をひとつの区切りとして、「2025年までフリーランスとして働けるのか」を探っているのですが、それまでに社会のしくみは変わっていくんでしょうか?

小熊:2025年というと5年後です。今回の新型コロナウイルスの問題で、企業の働き方が大きく問い直されていて、いろいろ変化もあるでしょう。しかし、雇用や社会保障のシステムが、そんなに短期間で激変するとは想像しがたい。

 歴史を振り返ると、あるシステムが動揺したり、壊れたりということは、何らかの衝撃や不況などで起こりうる。しかし、新しいシステムを作るということが、一朝一夕で成し遂げられることはあまりない。

小熊:日本の歴史をみても、他国の歴史をみても、何らかの衝撃で過去のシステムが壊れる時は、たいてい格差が開き、力のある者が有利になる。今後の新型コロナウイルスの問題でも、リモートワークが進んだのは大企業が中心で、そのなかでも以前から準備を進めていた企業です。

 これを機会に不況がくれば、まず自営業やフリーランスが困り、非正規雇用の解雇が進む。つぎに中小企業の雇用が不安定化し、さらには経団連などがもともと進めたがっていた解雇の自由化や、新卒一括採用の絞り込みなどが進む可能性がある。

 新卒一括採用や年功制は維持するけれども、それを適用する人数を大幅に絞りたいというのは、ずっと前から経団連の主張でした。システムが壊れる時というのは、もとから力のある者が、もとから準備していたことを進めるという形の変化が、起きることの方が多いのです。

山中:社会的にまだ少数派であるフリーランスに有利な変化が起こるとは、なかなか言い難いのですね。

小熊:もちろん、これを機会に一部のベンチャーや技術者、たとえばリモートワークや電子決済などを扱っていた企業などは、好機を得るかもしれません。しかしそれは、別の意味でもともと力を持っていた者であるわけです。

 日本の過去の例でいえば、1970年代の石油ショックの時期には、高度成長期にできた日本型雇用の劣化が進みました。たとえば、かつての年功賃金よりも40歳になって得られる賃金が少ないとか、雇用は保障されるけれども子会社出向だとか……といったように。

 今回のコロナウイルスの事態のあと不況になれば、現在と同じシステムが劣化していく未来のほうが、容易に想像できます。とくに労働者の側が、黙っていて何もしなければ、その可能性のほうが高いでしょう。

山中:フリーランスを支える法整備などは期待できないでしょうか。

小熊:それはもちろん、やったほうがいい。しかし、黙っていても政府がやってくれるなんてことはない。また「政府が法律として決めれば、実態がただちに変わる」なんてことはありえないですよ。有名な話ですけど、日本の法律には「終身雇用」なんてどこにも書いてない。慣行として一部のエリートにあった雇用形態を、戦後の労働運動がもっと広い労働者に適用するように闘ったから定着したものです。

 解雇の規制にしても、いろいろな裁判闘争の結果として、1970年代に裁判の判例として定着した。そのことから考えても、国会で決めて法律に書けば、労働者が何もしなくても社会に定着するわけじゃありません。

山中:なるほど……。

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