ミラノの創作系男子たち

活発に動き回っていたフルビオ パンデミック下でのライフスタイルは (3/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 身体を動かすにもややソフト志向に転じたフルビオだが、自らの中にあるもともとの欲求が弱まったわけではない。空間を大きく移動したい。かなり激しい運動をしたい。こういう欲求だ。

 彼が過ごした昨夏の休暇は、その最たるものだ。

 山のなかをマウンテンバイクで走り回る。週末、ロードバイクでミラノ近郊を走る。これまでも、このような習慣はあったが、20日間、毎日平均およそ100キロを走ったのである。午前中に走った気分で、その晩に宿泊するホテルを昼食時に決める。

 ミラノを出発して南東に向かった。一日目はピアチェンツァ近郊に泊まり、そこから海抜1500メートルの山越えをしてリグーリア州へ。エミリア・ロマーニャ州、トスカーナ州、ウンブリア州、そしてアドリア海側のマルケ州にたどり着いた。

 地図を眺めれば分かるが、アペニン山脈を横断している。ミラノには電車で自転車とともに戻った。

 「軽いロードバイクで荷物もあまり持たずに走ったので、距離は長いがとても気楽な旅だった。それもあって、イタリアの美しい風景を存分に堪能できた。泊まる場所も田舎の小さな村で、見知らぬ人との会話にも花がさいた」

 ある小さな村のバールの入り口に「COVID-19のため、ツーリストメニューは10ユーロに値上げせざるをえなくなりました」と書いてあった。フルビオがこれをオーダーすると、ラザーニャ、肉、チーズ、デザート、コーヒーと一揃い。ワインも飲み放題だ。10ユーロ(およそ1300円)といえば、ミラノのランチなら一皿食べられるかどうかの価格だ。

 その価格を申し訳ないと釈明しないといけないと感じる人がいる。この現実に目を開かれる思いがしたに違いない。日々、ペダルを踏んで自身と語り合ってきたフルビオにとって、「現実感の多様性」がより敏感に感じられただろう。

 この感覚をぼくは失っているのではないか? とふと我が身を顧みた。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)
安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。

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