「ビジネス視点」で読み解く農業

農業振興の最前線(3)強い農業を守る 地域振興の新しい形に挑戦する埼玉県深谷市の取り組み (1/2ページ)

池本博則
池本博則

 今回は、先回の宮崎県の取り組みに引き続き、マイナビ農業が取り組む「農業振興」の最前線をお伝えしていきたいと思います。

 今回の主役は、都心からJR高崎線に乗車すれば1時間30分程で行ける場所にある埼玉県深谷市。深谷と聞くとみなさん「深谷ねぎ」が頭に浮かぶと思いますが、この深谷ねぎをはじめ、とても農業が強い都市です。農林水産省による「平成28年度 食料・農業・農村白書」によると、平成27年市町村別農業産出額(推計)は349億3,000万円で、この産出額は、埼玉県内第1位、全国でも第20位の生産規模を誇っています。都心にも近い位置から、深谷市はまさに首都圏の消費を支える重要な農業生産都市です。

 そんな深谷市と私たちマイナビ農業は、農業を核にした地域活性プロジェクトを一緒に行っています。そのきっかけは、マイナビ農業が2018年に開催したシンポジウム「ネクストアグリプロジェクト」です。「農業の未来を考える」というテーマを掲げたこのイベントにご来場した深谷市産業ブランド推進室のご担当者にお声がけいただき、スタートしたのでした。

 「深谷市は農業を通して地域課題を解決していくような取り組みをしたいと考えています。ぜひ一度打ち合わせしましょう!まずは深谷へぜひお越しください!」。情熱的なご担当者から、こうした胸が高鳴るお言葉をいただき、初めて深谷市へ訪問したところから大きなプロジェクトが始まりました。

■強いからこそ、強みを生かして変えていくこと

 我々が自治体と打合せをする際は、まず地域の実状を知るために視察をするところから始まります。深谷市では、市が生んだ「日本資本主義の父」と言われる渋沢栄一氏の生家を訪問し、偉人の残した教えを守っていきたいという地元の人々の意志を感じました。また、農地を視察し、市が今後取り組みたいことについて協議のお時間をいただきました。

 「とても農業が強い都市なんだな」。その規模感やこれまでの市の状況を聞き、農業がとても強い都市であることを感じました。前述した通り、深谷市の生産規模は都心の消費を支えていると言っても過言ではないこと、そして、都心からの交通のアクセスの良さから、かつてより農産品を食品として加工する製造業も高い水準の規模感で有していました。これだけ農業が強い状況であれば、「農業」というテーマでの地域振興や農業振興は後回しにしてしまう自治体さんも多いと思います。

 でも深谷市はそうではなく、深谷市の産業ブランド推進として強いからこそ、地域の農業が変化に乏しいことを課題に感じ、変革を目指している。その情熱を強く感じたことが印象に残っています。民間企業でさえも会社の柱として今成功している事業に変革を与えることは、躊躇する、あるいは検討さえしないという事も多くある中、地方自治体として既に強い産業の変革を根本的におこなっていこうとする姿に出会ったのは深谷市のそれが初めてでした。民間企業で事業を運営する立場としても、このスタンスや取り組みからは今でも大変勉強させてもらっています。

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