働き方ラボ

いきものがかり“メンバー脱退”で考える…会社の辞め時と人の大切さ (3/3ページ)

常見陽平
常見陽平

 誰にでも「存在意義」がある

 ところで、いきものがかりの主要な曲は水野良樹が書いている。そして、グループの特徴は吉岡聖恵の歌声にあることは間違いない。ファン以外や、ライトなファンほど「山下穂尊の存在意義は?」と思う人もいるかもしれない。表面的には、水野良樹ほど売れる曲を書いているわけでも、ギターが突出して上手いわけでもない。しかし、バンドにおいて、メンバーに求められるのは作曲能力や演奏力だけではないのである。

 バンドで「なぜ、この人がいるの?」というメンバーには意外な存在意義があるものだ。「明らかに下手なのだけど」というメンバーがいる場合も、実はそれが強烈な味になっていることがある。特にロックバンドの場合、メジャー・デビューと同時にドラマーがスタジオ・ミュージシャン出身の、つまりカッチリとしたスキルがある人に交代することもあるが、意外にも前任の上手いとはいえないドラマーが、そのバンドのサウンドに大きく貢献していたことが明らかになることもある。

 ビジネスパーソンも、自分自身の「メンバーチェンジ」について考えてみよう。あなた自身が、今の会社・部署にいつまでいるのかということである。バンドメンバーが変化するように、組織のメンバーも変化していく。自分がいま、その会社、その部署にいる理由を考えたい。

 別に会社を辞めなくても、「異動」すれば新しいことにはチャレンジできるし、人間関係も完全にではないがリセットすることができる。また、昨今では副業を解禁、容認する企業も増えている。アーティストの「ソロ活動」ではないが、やりたいことが現状の会社、部署で実現できていないなら、副業で解決するという手もある。

 ときには、自分自身の存在意義を問われ、悩んでしまう人もいることだろう。「俺って何のためにいるのだろう?」と自分を責める人もいるかもしれない。ただ、前述のバンドメンバーと同じように、何でもないようで「大事な存在」という人はいる。組織の雰囲気をよくしたり、組織間の壁を壊すことに貢献したりする人だ。彼らの存在は表向きの「成果」として見えにくいが、会社風土を良くするために重要な存在になっていたりする。自分の存在意義に悩んでしまう人は、会社を辞める前に、一度立ち止まって自分と会社を見つめ直してみてほしい。

 長々と書いてきたが、最後に一言だけ。今回の脱退はいきものがかりメンバーにとって苦渋の決断だったと思う。ただ、いきものがかりと、山下穂尊それぞれの新しい章が始まることについて、私はワクワクと期待しかない。これからもぜひ、歌われる曲をつくってほしい。ありがとう。

常見陽平(つねみ・ようへい)
常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら。その他、。YouTubeチャンネル「常見陽平」も随時更新中。

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