「ビジネス視点」で読み解く農業

農業振興の最前線(5)「いつか農業のシリコンバレーに…」 深谷市アグリテック集積の現場から (1/2ページ)

池本博則
池本博則

 これまで2回にわたりご紹介をしてきた、埼玉県深谷市の取り組みですが、いよいよ今回が最終話です。実はこの連載が始まってから、ある自治体からお問い合わせをいただき、「深谷市のような取り組みをぜひうちの市でも検討したいと考えています! ぜひ深谷市のご担当者様を紹介してください!」というご連絡をいただきました。

 民間企業では同じ目標を掲げて業務をしている組織が並列に存在するケースが多いため、好事例の共有は事業経営としてとても良い効果を期待できるものとして推奨している企業は多いと思いますが、自治体ではなかなかこうした「生きた施策」を共有する機会も無いため、今回の記事がそういうきっかけになれたらとても嬉しいことだなと思います。

 また、地域振興や農業振興のお手伝いしている当社だからこそ、こうした施策や事例を世にしっかりと発信をすること、そして引き合わせしていくことにもっと取り組みをしていかなくてはならないと強く想った次第です。

 さて、これまでの2回の連載を通して深谷市の取り組みを紹介してきましたが、深谷市の未来の農業に対しての想い、農業を中核においた都市構想。そしてその想いを形にしたアグリテック集積宣言。日本の農業の未来を変える技術を持つ事業者出会うための施策として始めた「DEEP VALLEY Agritech Award(以下、Agritech Award)」など、短い期間でまるで民間企業のベンチャー企業のようなスピードで施策が展開されてきました。

 今回はAgritech Award後の実際の取り組みとして、最優秀賞を受賞し本格的に深谷に進出しした企業を紹介します。令和元年度の初年度開催でプロダクト部門最優秀賞となったグリーンラボ株式会社です。

■サスティナビリティを生み出し地域を幸せに

 グリーンラボ社は「地方の課題を解決するために新しい農業の形をつくりたい」という長瀬社長の強い想いから誕生しました。ここ数年様々な農業ベンチャーにおいても優れたプロダクトとして多くのメディアに取り上げられています。(※同社のプロダクト開発は親会社であるグリーンリバーホールディングス社が、そして農業資材・設備の販売および農産物の生産・販売を手掛け、独自開発の縦型水耕栽培装置による次世代農業事業を各地で展開することをグリーンラボ社が担っており、もしかするとグリーンリバーホールディングスでご認知されている方も多いかと思います。)

 同社を紹介する上で、私とグリーンリバーの最初の接点をご紹介します。実はAgritech Awardの数年前、代表である長瀬社長とは、とあるベンチャーキャピタルの紹介でお会いしました。当時は同社の取り組みがテレビのドキュメンタリー番組で取り上げられ、農業界で注目されはじめたタイミングでの初対面でした。

 長瀬社長とお会いしての最初の印象は「日本版イーロン・マスクみたいな人だ!!」というものでした。なぜそう想ったのかというと、これまでこの連載でもお話をしてきたとおり、日本の農業界、そして地域にとってこれからの未来で大切なことは「持続可能性を作り出すこと」だと私自身とても感じています。

 そうはいってもなかなかそれを実現することは容易なことではないと常日頃考えているわけなのですが、長瀬社長はテクノロジーを通して変革を生み出すことに挑戦することをとても明確にされているし、目指すべきビジョンは日本の未来の農業のために必要なものであると、初めての出会いで痛感したのでした。

 その長瀬社長の姿はアメリカで急成長を果たしているテスラ社の共同創設者であるイーロン・マスク氏が電気自動車(EV)を最先端のテクノロジーを駆使して、自動車産業を大きくディスプラウトしていく取り組みに挑戦をしているものにとても通ずると感じました。サスティナブル=持続可能な社会を生み出す、そこに長瀬社長とイーロン・マスクを重ね合わせたのでした。

 彼らの作り出すプロダクトはこれまでの日本の農業ビジネスにおいて必要不可欠なものであるとされていた「熟練した技術」や「膨大な労力」、そして「広大な農地」の3つを必要とする従来型の農業ビジネスから脱却し、最先端のテクノロジー、高い生産性、管理可能な農地を独自の縦型水耕栽培装置である『Bi-Grow』を活用して生みだすというものです。

 この『Bi-Grow』はとても優れモノで、コンパクトな設計なので場所をとらず土も不要、水やりなどの作業も不要。1年間を通じて栽培が可能な装置です(実はマイナビ農業の事務所を人形町へ移転するにあたり、オフィスで何か作物が作れないかと色々と考えた末、この装置を設置して栽培しています)。

 この装置ではバジルや、ミント、シソ、イタリアンパセリなど、比較的高値で販売される、付加価値の高い葉物野菜が栽培可能で、一部根菜類の栽培にも対応できる仕様となっています。また、遠隔型の制御が可能で、外出先からも窓の開閉などの調節ができ、管理者は現場外からも管理可能であるため、現場にいる作業者は収穫作業に集中することができるという強みを持っています。

 また、もう1点、従来の農場のIoT制御においては温度や湿度の設定の変更が難しいケースが多かったのに対し、この製品は予め明日の天気について予報を見て予測の上、湿度調整が可能であり、みずから最適な生育条件をコントロールして作り出すことができます。

 そうした技術を持つ同社が今回Agritech Awardで深谷市へ提案した内容。それは深谷市において古くなった公民館や市庁舎などを有効利用し、『Bi-Grow』を使ったスマートアグリを活用した農業振興、そして地域振興を掛け合わせたプロジェクトでした。

 今、日本中の地域課題と言っても過言ではない、少子高齢化、過疎化、または数十年前に進行した各市の統廃合等の影響もあり、多くの自治体が保有している公民館や庁舎などの施設、はたまた小中学校の廃校など遊休施設の問題はとても深刻な問題です。そのような施設を活用して、太陽光発電など再生可能エネルギー事業とスマートアグリファクトリーの創出をおこなう同社の構想はAgritech Awardの中での提案の中においてもひときわ具現化、実現可能性、期待値の高いものとして評価されました。「持続可能な社会を築く」これはまさに深谷市が目指した農業都市のあるべき姿のその第一歩として素晴らしい提案でした。

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