働き方ラボ

東京五輪開会式はロスジェネ世代の「成人式」 渋谷系管理職を読み解くヒント (3/3ページ)

常見陽平
常見陽平

 私たちは大人にならなければならない

 開会式自体の出来については、事前のバタバタもあり、賛否をよんだ。ただ、率直に私は、メッセージなどはぼやけたし、日本らしさや目新しさは弱いものの、及第点ではあったと思う。リオ五輪閉会式での東京五輪のパフォーマンスや映像は「安倍マリオ」に引きつつも、今思うとワクワクドキドキ感と、新旧の日本の魅力が凝縮されていた。それと比較すると、東京五輪の開会式は何を伝えたいのかよくわからなかったが、これもしょうがない。例のバタバタだけでなく、何のための五輪か最後には分からなくなってしまったのだから。

 いかにもこの手のイベントに冷めていそうで、批判的な私だが、一応、ちゃんと見た。率直に、内向きの開会式であり、及第点レベルだなと思いつつ、感動したポイントはなくはなかった。前出の松井秀喜の姿や、森山未來のパフォーマンスなどである。

 そして、まったくの社交辞令として捉え、期待していなかった東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長の挨拶には、なぜか感動してしまった。五輪開催には、コロナ前から疑問を持っていた私だが、開催推進派の、関係者の想いがなんとなくわかった。何か特別なことを言ったわけではない無難なスピーチだったが、アスリート、政治家、東京五輪の実行委員長としての溢れ出る想い、等身大の言葉にはぐっときた。

 この開会式自体で、90年代カルチャーがあたかも、NHKがたまにやる若者番組的な「カルチャーをわかってやっているぞ、つかってやっているぞ」的な空気を感じてしまった。10代、20代のころの大人たちの視点を思い出した。

 そして、この中途半端感。及第点、合格点なのだが、いまいちすっきりしない感じの正体は、自分たち自身そのものの問題だとも解釈した。バブルでもゆとりがなく、何か信じていたものを喪失した気分。東京五輪開会式は、ロスジェネの成人式だったのだ。「早く、大人になれよ」そう言われているように感じた。

 というわけで、東京五輪開会式をみて、もう50手前なのだけど、大人にならなくてはと思った次第だ。90年代カルチャーとは何か、ロスジェネ管理職とは何か。読み解くヒントが見事に東京五輪に凝縮されていた。

常見陽平(つねみ・ようへい)
常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら。その他、YouTubeチャンネル「常見陽平」も随時更新中。

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