同時に、本社がミラノからローマに移った。そこでアルベルトは決意した。奥さんはミラノで仕事があり、娘も小さい。それなら会社を辞めて、テレビ局のコンテンツ制作を独立した立場でやろうと判断したのだ。それで今がある。
「ずっと海が俺を呼んでいたのだ」
それほどに海とヨットとは縁が深い。アルベルトの祖父母は地中海に面したジェノバの出身だ。彼自身はミラノで生まれ育ったが、両親は頻繁にヨットに連れていってくれた。夏ともなれば毎日のように兄弟と一緒にディンギーで沖に出た。
そうした経験があったから、冒頭に紹介したフランコ・マリングリの息子、フランチェスコ・マリングリとの出逢いによって「航海」の凄さに参ったのだ。半日程度の沖での舟遊びから、冬の夜の数泊の海も経験することになったのである。
アルベルトは世界の海を経験してきたが、「地中海出身」だ。ぼく自身も少しヨットに触れていたことがあったので、前々から知りたいことがあった。
ヨーロッパでも大西洋沿岸の国と地中海沿岸の地域でヨットに対する姿勢が違うのではないか、とぼくは感じてきた。イタリアでは5-6人以上で乗る居住空間・設備のあるクルーザータイプが主流で、1-2人乗りのディンギーが英国ほどに盛んではないとの印象がある。
その点をアルベルトに訊ねる。
「地中海でも嵐に見舞われることがあるが比較的穏やかだ。リラックスして共存して遊ぶ感覚が強い。しかし外洋は違う。もっと闘う相手だ。だから英国のヨットマンの方が深く究めようとする姿勢が強い」
英国人は深く追求するから、タフなディンギーを好むのか。