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「共感を呼べ!」と叫ばれる今 人のいない風景を追うカメラマン、グレゴールの作品に思う (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

「共感を呼べ!」と大きな声で叫ばれる。そのためにアップで撮影された人の表情が、ネット上、そこかしこに散らばる。人の関心をひくには、更にいえば人に行動を促すには、感覚や感情のレベルに訴えかけるべきだ、と。

 しかしながら、オーストリア人の写真家、グレゴール・サイラーはまったく逆のアプローチをする。

 「人の表情を撮ることは、ある意味、逃げでもある」と語る。彼は世界の真実に迫るに人のいない風景をひたすら追う。

 彼のことはミラノの創作系男子でも紹介したことがある。まったく人のいない街を撮り歩いた写真は次のようなものだ。ポチョムキン村あるいはモックタウンと呼ばれるそこは、地上戦を想定した軍事目的のための「かきわりの街」だ。

 今月はじめ、彼が住むインスブルックで会った。これまでミラノと東京で会ったが、はじめて彼のホームグラウンドで会った。

 お互い子ども連れでリラックスしながらビールを飲む。ぼくの大学生の息子もカメラマンになりたいと思っているらしいので、アナログカメラを使い、人物は撮らない写真家と話しておくのはいいかもしれないとも考えた。

「カメラマンは今や多すぎる。そのなかで人のやらないことを自分の領域として作っていかないといけない」という彼の言葉は、デジタルカメラで撮った写真を加工し、それをソーシャルメディアに載せる「今どき」の息子の耳にはどう聞こえただろうか。

 グレゴールと分かれたあと二人で夕食をとり、既に8時から9時ころには通りから人が消えつつあるインスブルックの街を散歩しながら、ミラノ生まれの息子は「毎日の生活はもう少しサイズがある活気のある街がいい。大きすぎるのは嫌だけど」と話す。

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