前回、日本の企業には、市場の変化に対応するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められていると述べました。今回は、事業承継時をDXのチャンスだととらえ推し進めた結果、失敗に至った中小企業の事例を紹介したいと思います。
経営におけるDXの必要性
なぜDXが必要なのか。まず日本の企業経営をとりまく環境をおさらいします。
- 一方的に情報発信をする時代から、「調べる時代・拡散する時代」に変化した
- 非対面・非接触でのビジネス展開が可能になった
- 人材の効率化の観点からデジタルを取り入れる時代に変化した
スマートフォンの普及で簡単に情報が調べられるようになり、SNSなどの普及で情報が拡散し広がる時代へと変化しました。社会の変化に伴い、経営者はビジネスモデルを変えざるおえない状況に立たされています。
また、コロナによって急激にデリバリー市場が普及し、注文をスマートフォンで取れるようになっています。対面・対人での接客を中心とした飲食店は経営が厳しくなっているのです。
さらに、人材難が進むにつれ、人の仕事がデジタルソリューションにとってかわられています。AIが進化していくことで「消える職業・なくなる仕事」というキーワードがバズワードになっているほどです。
社会はデジタルを必要とし、経営者・後継者はしっかりとDXに向き合わなければならなくなってきているのです。
事業承継時がDXのチャンス
事業承継は、企業やサービスのDXをおこなうのに最適なタイミングのひとつであるといえます。実際、事業承継を行う中で、後継者がDXを取り入れることは珍しくありません。その要因は以下のとおりです。
- 現経営者よりも若い層に経営が引き継がれるため
- 後継者が既存のやり方に疑問を持つことができるため
- 時代の変化に対応できるため
多くの事業承継では、現経営者よりも若い層に経営を引き継がれます。若い世代はスマートフォンやSNSに対して抵抗がなく、順応してビジネスに取り入れられるでしょう。
また、そうした若い後継者が先代による既存のビジネスの進め方に疑問を感じ、もっと効率的に、もっとスマートにビジネスを進めることを好むケースが少なくありません。
そして、時代の変化に適応し新たな情報の発信手法としてデジタルを取り入れたり、商圏を広げるためにSNSを活用したりと、チャレンジを行うことが可能になります。
後継者が陥りがちなDXの落とし穴
しかし、後継者がDXの推進を早まるがあまり、失敗する事例も増えてきています。
- デジタル用語、ツールを多用しすぎるがあまり、既存の社員がついて来れない
- 企業文化にあわず社内に定着しない
- 既存事業とのシナジーが生み出せない
これらの理由で、後継者としては良かれと思って進めているDXが、実際には後継者を孤立してしまう可能性があるのです。
実際に、以前筆者がインタビューした呉服屋さんでは後継者が望んだ呉服販売のDXに失敗しました。そして、結果として後継者候補だった息子さんは呉服屋を引き継ぐことを断念した事例があります。