長寿企業大国ニッポンのいま

事業承継はDXのチャンス? 呉服屋の七代目が特注品のネット受注で失敗したワケ (2/2ページ)

葛谷篤志
葛谷篤志

成功するはずだった、呉服のオーダーメイド

 明治から呉服店を営むこの企業では六代続く由緒ある呉服店。初代・二代目は、繊維加工、三代目から実際に店舗を持ち販売にビジネスを変化させていきました。

 七代目候補だった後継者候補は30代前半で、他業界のIT会社の経験を経て、父の会社を引き継ぐために戻ってきました。

 事業承継の期間は5年程度を想定し、呉服のこと、仕入れ元、加工工場などを学び、まずは取締役として経営に参加するようになりました。

 経営に参画して、初めの提案は、呉服のオーダーメイド(特注品)販売でした。

 ユーザーがオンラインで好みのデザイン、生地を選び、サイズに合わせて着物を仕立て提供するという、D2C(Direct to Consumer)の呉服店の展開を始めます。

 実際に始めてみると、さまざまな問題が発生しました。生地の生成工場との連携が難しかったり、生地の質感が伝わりづらくユーザーからクレームを受けたり…。ウェブ上での接客こそ上手くはいくものの実際に商品を届ける過程で様々な障壁にぶつかります。

 また、今まで商店街の一角で営んでいた呉服店から、デジタルにシフトすることで、商圏が広がり注文が増えると期待していましたが、思うように注文は増えませんでした。

 販路を拡大させ、接客コストを圧縮できるチャレンジとして経営会議で賛同をえた施策ですが、成果を出すことはできませんでした。

 「スマートフォン一つで、オーダーメイドで呉服が作れるシステム」を作るわけですから、開発投資は安くはありません。結果として、この後継者候補は、会社で居心地が悪くなり、結果として事業承継を断念。別の道を歩むことを決意しました。

 のちのインタビューで後継者候補の方の失敗の原因は以下だと伺いました。

  • 呉服を作るプロセスは学んだものの、購入者の気持ちを捉えられなかった
  • 生地の生成工場、加工工場、デザインチームとの連携ができず、DXで効率化を図るはずが、かえって業務負荷を与えてしまっていた。
  • 自らDXを急進的に進めすぎたことにより、元からいた社員のみんなと距離が生まれた

 この呉服店の事例のように、DXを進めたからといって実際に成功するとは限らないのです。

 DXを推進することで、日本の古き良き企業が新しいビジネスチャンスを生み出すことができると私も信じています。しかし、デジタルという業界かけ離れている業態が焦ってDXを取り入れてしまうと、歴代の経営者が紡いできた社員や取引先との関係性を置き去りにしてしまい、後継者候補が孤立してしまうことも多々あるようです。

 事業は大胆に、しかし慎重に、承継することをお勧めいたします。

葛谷篤志(くずや・あつし)
葛谷篤志(くずや・あつし) 事業承継士
一般社団法人 事業承継協会埼玉支部 理事
ウェブマーケティング企業での業務を通じて地方企業の後継者不足を目の当たりにしたことをきかっけに、自身で「事業承継士」の資格を取得。自身が運営するWEBマガジン「事業承継ラボ」では、後継者の経営革新・経営改善に関する情報を配信。国内のより良い企業の、継続・存続を支援する。

【長寿企業大国ニッポンのいま】は、「大廃業時代」の到来が危惧される日本において、中小企業がこれまで育ててきた事業や技術を次の世代にスムーズにつなぐための知識やノウハウを、事業承継士の葛谷篤志氏が解説する「事業承継」コラムです。アーカイブはこちら

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