原発推進国の中韓、お寒い地震対策 日本の原子力規制委はあきれ顔

 
中国の原発の現状

 中国・北京で11月29、30日に開かれた第9回日中韓原子力安全上級規制者会合に出席した原子力規制庁の清水康弘長官が12月7日の原子力規制委員会の定例会で報告を行った。報告は会合の概要を伝える簡単なものだが、中韓両国の規制水準の低さが垣間見える内容で、報告を受けた原子力規制委員会の委員らもあきれた様子。「もっと建設的な議論をしてもらいたい」と、3国が協力して原発の安全水準を引き上げるよう注文をつけた。(蕎麦谷里志)

 開発続ける中韓

 中国や韓国は東京電力福島第1原発事故以降も、原発政策を維持し続けている。

 日本原子力産業協会によると、特に中国は大気汚染が深刻化したことで、原発の役割が増しているといい、2016年1月1日までの1年間で8基の原発が新たに営業運転を開始。同国内で運転中の原発は30基(合計出力約2800万キロワット)となった。2020年までに5800万キロワットを目指す計画があり、今後も建設ラッシュは続く見通しだ。

 韓国も2016年1月1日現在で24基が稼働し、4基が建設中で6基が計画中。福島の事故以降、国内には原発に反対する声も多いが、2015年7月にまとめた第7次電力需給基本計画では、2029年の電源設備構成の28・2%を原子力発電で補うとしている。

 自動でなく手動で停止

 こうした状況を踏まえ、同会合は、各国の原子力規制担当者が毎年1回集まり情報交換を行っているもので、規制委の前身である経済産業省原子力安全・保安院時代の平成20年から毎年行われている。

 規制委の定例会で清水長官から報告を受けた石渡明委員が「韓国では地震があって原子炉を手動停止したと聞いているが、そのことは話題になったか」と質問すると、韓国や中国の規制の一端が明らかにされた。

 清水長官の説明などによると、韓国では9月12日夜に南東部でマグニチュード(M)5・1と5・8の地震が相次いで発生。その際、震源に近いウォルソン原発で約200ガル(ガルは揺れの強さを示す加速度の単位)を観測し、手動停止させたのだという。

 それを聞いた石渡委員は「韓国は200ガルくらいで、自動停止せず手動停止した。日本だとどの原発も自動で止まる。分かりましたそういう状況なんですね」と、半ばあきれた様子でそう語った。日本では一定の揺れを感知すれば、原子炉が自動停止する設計になっており、人が止めなければならないという状況は、日本では考えられない設計だからだ。

 規制庁は会議後、このとき説明した約200ガルという値を約100ガルと訂正したが、手動停止した事実は変わらない。

 韓国は日本に比べて地震のリスクは小さいとされる。今回のようなM5クラスの地震は日本では珍しくないが、韓国では過去最大規模の地震とされ、大混乱となった。それだけに、原発の地震に対する備えも不十分だったのだ。

 規制庁によると、韓国の規制当局は今回の地震を受け、原発施設の耐震基準を約200ガルから約300ガルに引き上げ、対策を順次進めているという。

 中国では300ガル以上の地震はないというが…

 規制庁によると、このとき中国の規制担当者からも中国の状況について簡単な説明があったという。中国担当者は、中国で導入する新設計の原発は300ガル相当の耐震設計で造られていると説明した上で、「中国国内では300ガルを超える地震は現れないので、こうした耐震でどこでも対応できる」という説明があったという。

 ちなみに、日本の原発が想定している地震の規模は、発電所によって異なるが約600~2300ガルだ。自然条件が異なるため、一概に韓国や中国の規制が低いとはいえないが、規制委の田中俊一委員長も同日の定例記者会見で「中国も四川省や山東省で大きな地震が起きている。原発も今後たくさん造られる…」と懸念を示している。

 風上の中韓で事故が起きれば…

 委員らが中韓の現状にやきもきするのは、両国で事故が起きれば、日本への影響が避けられないからだ。

 規制委の田中委員長は「季節にもよるが、西から東に地球上の風は流れており、中韓は風上になる。(事故が起きれば)放射能の拡散はあり得る」と話す。

 日中韓の規制担当者が集まり情報交換する意味はここにある。事故に備えて連絡体制を構築しておくことや、普段から情報交換をすることで互いの安全技術の向上を図る狙いもある。

 ただ、同会合は十分に機能しているとは言い難いのも事実だ。規制委の担当者に聞いても、中韓の規制については「十分に把握できていない」と話す。規制委の伴信彦委員は定例会合の中で「私も昨年出席したが、各国がそれぞれの状況を紹介しているだけの印象を受けた」と会議のあり方に苦言を呈した。

 3国会合は持ち回り開催で、来年は日本で開催される予定だ。田中委員長も「よその国の規制にまで口出しすることは基本的にはできないが、せっかく3カ国で情報交換会議が行われているので、われわれの経験や知見をきちっと伝えて、安全確保に努めてもらうことが必要だ」と指摘。その上で、規制庁に対しても「(韓国のような)自動停止しないようなシステムを許容してよいのかという議論とか、わが国の経験やいろんな議論ができるようにしてもらいたい」と注文をつけた。