「家族へ思いを伝える成人式」が今、人気を集める理由

    間もなく成人の日がやってくる。成人式と言えば、朝早く起きて着付けに行き、式典では市長や来賓の祝辞を聞き、終われば同級生たちとパーティーで盛り上がり、夜遅く帰宅する。こんなパターンが当たり前になっている。

    これでいいのか? そもそも成人式は何のためにあるのか? この現状に一石を投じた「ある成人式」が話題となっている。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

    それは「家族のための成人式」。文字通り、20歳になったことを家族と一緒に喜び、思い出の1日にするためのイベントだ。3年前に新潟県の企業が始めたものだが、評判が広がり、今年は1000組を超す家族が行っている。

    いったいどんな成人式なのか。主催する株式会社いつ和・アニバーサリー事業部長・中西昌文さんに取材した。同社は1892(明治25)年創業の老舗呉服会社で、全国に116店舗(2021年10月現在)を有している。

    「成人式を迎えた方の写真を以前から店舗で撮影していました。次第にご家族で来店されるケースが増え、家族一緒に写真を撮りたいという声が増えてきたのです。自治体が主催する成人式には親御さんは出席できませんし、親御さんやお子さんが感謝を伝え合う場所がないことに、気づいたのです。そこで何か成人の記念になることができないだろうか、と考えたのが始まりです」(中西さん、以下同)

    家族のための成人式は、現在9店舗で行われている。当日は家族と一緒に店舗に出向き、写真を撮影。そして自筆の手紙を交換して、20年間の感謝の気持ちを送る。希望に応じて、ホテルや能楽堂といった特別な場所で式を行うことも可能だ。

    「手紙には、お子さんが生まれた時のことや幼かった頃の思い出、巣立っていくお子さんへのメッセージなどを事前に書いていただき、当日、それを読んで互いに感謝の思いを送ります。時には、母子手帳を送ることもあり、知らなかった親御さんの苦労に涙を流すお子さんも少なくありません」

    あるお母さんから娘さんへの手紙を紹介しよう(抜粋)。

    〈これからも知らないことがたくさん起こると思います。そんな時に後悔しないように、自分で進んでいってください。もちろん困った時は一緒に考えるからね。いつも自分のことは後回しにして、他の人の力になろうとするのが、すごいと思っていました。そんなあなたがもう成人なんだね。成人おめでとう〉

    こんな温かいメッセージが綴られている。

    この成人式に参加したお子さんからは、「親にありがとうと言うことができて良かった」「最初はどんな式になるのか不安だったが、実際にやってみると思いが込み上げて泣いてしまった」という声が。

    親御さんからは「子どもが成人して嬉しいような寂しい気分です。でも今の時代は、結婚式を挙げないかもしれないので、その代わりになって良かったと思う」。こんな感想が届いている。

    「今も思い出すのは、お母さんを亡くし、父子家庭で育ったある娘さんのことです。その娘さんはお母さんを亡くした後、お父さんの手で育てられ、20歳を迎えることができました。その感謝の気持ちを贈りたいと、父に内緒でスタッフに相談。父母のために指輪を作りました。成人式当日は、亡きお母さんが成人式で使った髪飾りを身に付けて参加しました。式の途中、サプライズでお父さんに指輪を送り、その場で指にはめてあげたところ、2人とも涙を流して感激されていました。こういう場面に立ちあえると、この仕事のやって良かったとしみじみ思います」

    成人式は本来、大人になった青年を祝い励ますのが目的だった。戦後間もない1948(昭和23)年、日本政府が制定した「成人の日」が発端だが、その趣旨は親が成長した子を祝う行事であった。

    さらに歴史を辿ると、男性の「元服(げんぷく)の儀」や女性の「裳着(もぎ)」といった行事は、奈良時代から行われてきた伝統の成人式でもある。

    「かつて成人式は、我が子が20年間無事に育ったことを親子で喜び、前途を祝す行事でした。しかし、時代とともに、いつの間にか自治体が主催するのが当たり前になってしまいました。我が子が無事に大人になったことは、親御さんの誇りでもあります。そんな風に考えれば、成人式は家族で行うことにこそ意味があるのではないでしょうか。成人式は、親御さんにとって“子育て卒業式“。お子さんには“家族からの巣立ちの儀式”であるべきだと考えています。それを実現するのが、家族のための成人式なのです」

    同社では今、専用の成人式場建設を構想している。

    「親子が感謝の気持ちを伝える行事と言えば結婚式がありますが、晩婚化、未婚化が進んでいる今の時代、結婚式を挙げないご家庭も多くなっています。その影響で感謝を伝える場がなくなりつつあリます。代わりというわけではありませんが、20歳になる時は、家族で祝うのが当たり前になる。そんな文化を日本に定着させたいと願っています」

    成人式の「原点」に立ち戻ったと言える「家族のための成人式」。今後も広がっていくことは間違いないだろう。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

    5時から作家塾(R)、過去のアーカイブはこちら


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