スマホやパソコン…世界競争の予兆 アップル副社長が大阪を初視察

 

 米アップルのブライアン・クロール副社長が、大阪のアップルストア心斎橋で産経新聞の取材に応じ「大阪には、より多くのユーザーを獲得できるチャンスがある」と強調した。米本社の役員が大阪を視察するのは初めて。2015年10~12月期には、スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の世界販売台数が前年同期比0・4%増と、過去最低の伸び率にとどまった。日本でもスマホ市場の成長が頭打ちとなるなか、スマホとパソコンを組み合わせた顧客基盤の拡大に今後の成長の糧を求める戦略が透けてみえる。(石川有紀)

 パソコン乗り換えを強化

 「アイフォーンをきっかけにパソコンのマックユーザーを増やしたい」

 1月28日、アップルストア心斎橋を視察したクロール副社長は、パソコンへの乗り換え需要に意欲を示した。

 調査会社、MM総研の国内携帯電話出荷概況によると、昨年のアップルの日本での販売台数はアイフォーン発売以来初めて前年を下回った。アイフォーンによる急成長に陰りがみえるなか、次の一手が求められている。

 それでも、日本のスマホ市場でのアップルの存在感は大きい。調査会社、IDCによると、昨年4~6月期の国内スマホ出荷台数シェアはアップルが前期(同年1~3月)比で12・0ポイント落としたとはいえ、依然として39・1%と首位を維持している。2位以下のソニー(14・9%)、シャープ(13・2%)に大差をつけている。

 一方、IDCによると、日本のパソコン市場は米マイクロソフトの基本ソフト(OS)ウィンドウズ搭載パソコンが主流だ。昨年4~6月期の国内出荷台数シェアはNECレノボがトップの24・7%。以下も富士通、東芝、HP、Dellとウィンドウズ搭載陣営が続き、アップルは6位に甘んじている。

 長年、パソコンのOSを担当しているクロール副社長は「マックはウィンドウズからのデータ移行が簡単にできる。オフィスのファイル互換性もある」と指摘し、「アイフォーンの操作に慣れた顧客がパソコンでウィンドウズからマックに乗り換えるのはイージーだ」と自信をみせた。

 大阪に勝機?

 大阪について、クロール副社長は「より多くのユーザーを獲得できるチャンスがある」と述べ、多くの人でにぎわうアップルストア心斎橋の視察で自信を深めたようだ。

 調査会社のデータを踏まえ、アップルのパソコン販売台数のシェアは東京で20・5%。それに比べて大阪で12・6%と把握しているといい、それだけ大阪はパソコンの“伸びしろ”が大きいと見込んでいる。

 その意気込みは、大阪の主な家電量販店のアップルコーナーの存在感の大きさに表れる。

 アップルの広報担当者は「首都圏の家電量販店ではアイフォーンが牽引(けんいん)役となってマックが幅広い層に売れている」と話しており、首都圏の“成功体験”を大阪に持ち込む意図をうかがわせる。

 囲い込み本格化

 スマホのアイフォーン、タブレット端末のアイパッド、ウエアラブル端末のアップルウオッチ、パソコンのマック…。

 アップル製品を並べ、薄さやシンプルなデザインを強調した画像を記者にアピールしながら、クロール副社長は「それぞれの製品に搭載されたアプリは連動するため、組み合わせて使うことで、より良いユーザー体験ができる」と訴えた。

 ただ、ライバルの米マイクロソフトも、昨年夏にスマホやタブレット端末との連動性を強化したOS「ウィンドウズ10」の無料提供に踏み切っており、今後は顧客の囲い込み競争が激化しそうだ。

 日本市場を制するのは、スマホ王者のアップルか、パソコン向けOSで圧倒的シェアを握るマイクロソフトか。

 IDCジャパンの片山雅弘リサーチマネジャーも「総務省の指導で携帯端末の“実質0円端末”販売ができなくなると、高機能のアイフォーンは価格が高い分、販売で影響を受けるだろう。今後は、スマホとパソコンを含めて企業向け需要が成長のカギを握る」と予想している。

 米アップル首脳の大阪訪問は、スマホやパソコンなどをめぐる次なるBtoB(企業間取引)戦争の幕開けを予感させるものとなった。