シャープ身売りの行く末 「経営の独立性」は名目だけ…鴻海傘下で虚妄
高論卓説シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って経営再建を目指す道を選んだが、今後も「経営の独立性」を維持するという。しかし、つじつまが合わず、実際にはあり得ない話である。
鴻海側への第三者割当増資と筆頭株主の異動などに関してシャープがまとめた開示資料には、鴻海側から「当社の経営につき、以下を含む力強いコミットメントが得られた」とうたっている。
その筆頭に「経営の独立性」を挙げ、「当社及びその子会社の経営の独立性を維持・尊重すること」と明記している。次いで本体、子会社の事業の一体運営を継続する「一体性の維持」を記す。さらに「従業員の雇用維持」「ブランド価値の重要性」「当社の技術の保持」を列挙する。
この通り行くのならば、買収される見返りにシャープは鴻海から、かなり有利な条件を引き出したことになる。
2月4日の記者会見で高橋興三社長は、支援に名乗り出た鴻海と産業革新機構との協議の前提を語っている。特に「シャープが100年を超す会社のDNAを残しながら、将来にわたって成長していくためには、カンパニー(事業)ごとに分解するのはお互いにマイナスだ」と、両者に説いたという。
産業革新機構を抑えてシャープに買収を受け入れさせた鴻海は「経営の独立性」維持を約束した。高橋社長にとっては満額回答を得た格好である。だが本当に、そうなるのだろうか。シャープの発表には、具体的な保証措置は見当たらない。それどころか矛盾がある。
シャープが開示した内容で鴻海が正式に契約を結び、第三者割当増資を引き受ければ、鴻海は株主総会での議決権の約66%を握り「親会社」になる。2017年7月以降、議決権のつかない優先株も議決権のある普通株に替えられ、鴻海の有する議決権は約70%に高まる。
開示資料には、取締役13人のうち9人または取締役の総数の3分2超を、鴻海の指名に従って選任するのに必要な「株主総会及び種類株主総会の承認決議を得るよう最大限努力する」とある。
鴻海側が取締役会で多数派になれば代表取締役や社長を選べる。約66%の議決権があれば、取締役、監査役の選任、取締役の解任などができる。約70%を握ると、定款の変更や合併、事業の譲渡、監査役の解任などが可能になる。鴻海は絶対的な権限を持つので、シャープの「経営の独立性」は名目だけのものにならざるを得ない。
現在も同社は直接金融で資金調達する能力を失い、銀行に生殺与奪の権を握られている。自立的な経営判断ができる状態とはとても言えない。銀行に改めて金融支援を求める産業革新機構案を退けて、銀行に新たな負担をかけない鴻海の提案を受け入れたのは当然ともいえる。
言葉だけだろうと「経営の独立性」にシャープの経営者がこだわるのは「シャープ」のブランドを守る姿勢を見せたいためかもしれない。「液晶のシャープ」で一時代を築いたプライドもある。
しかし自力で立ち直れない企業が他社に買収されて再起を図るのは、経営を根っこから変える必要があるからである。正式な契約がまとまれば、シャープ再生の成否は、ワンマン経営で知られる鴻海の郭台銘董事長の辣腕(らつわん)に委ねられる。
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【プロフィル】森一夫
もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。66歳。
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