「越境」出遅れる関電 安定揺らげば本末転倒 原発再稼働がネック
【変わる 電力小売り】(下) 市場活発化左右も
「電力小売り全面自由化が始まるまであとわずかだ。全力を尽くして間に合わせてほしい」
自由化まで4カ月に迫った2015年末、経済産業省資源エネルギー庁の長官室で、日下部聡長官は大手電力の首脳らを呼び、強い口調で要請した。各家庭が電気の購入先を変更する際に必要な基幹システムの開発が難航していたためだ。
東京電力の山口博副社長は2月9日、経産省で開かれた自由化の準備状況を議論する電力基本政策小委員会で、「(基幹システムの)開発工程に遅延はない」と強調した。
電力広域的運営推進機関(広域機関)は1日、大手電力と新電力の契約切り替え業務を一括で行う「スイッチング支援システム」の運用を開始した。東電などが開発する基幹システムもこれに連動する。
トラブルの恐れ
だが、実際にはトラブルの恐れは消えていない。東電幹部は「4月1日の自由化直前に申し込みが殺到すれば不測の事態も考えられる」と打ち明ける。万一、基幹システムに障害が起きた場合、購入先の切り替えを手作業で行うことになり、手続きが大幅に遅れる恐れがある。
02年に第一勧業銀行と富士銀行、日本興業銀行の3行が統合して「みずほ銀行」が誕生した際にも、現金自動預払機(ATM)が使えなくなるトラブルが発生し、全国に混乱が生じた。規制から開放へ転じる電力システムの大改革は、想定外のトラブルと背中合わせだ。
「条件が整えば検討するが、具体的には決まっていない」
関西電力の八木誠社長の口ぶりは歯切れが悪い。エリア外で電力小売りを行う越境販売には、東電や中部電力、四国電力、九州電力が名乗りを上げた。だが、関電は越境販売計画で出遅れた。理由は原発再稼働の遅れだ。
電源に占める原発比率が高い関電は、原発停止の長期化による需給悪化にさらされてきた。それだけに、他社管内での販売よりも「まずは原発再稼働で管内の需給を安定させ、その上での越境販売だ」(幹部)との思いは強い。
競争に危機感
ただ、頼みの高浜原発再稼働は、4号機の冷却水漏れや、2月29日の緊急停止などトラブルが相次ぎ、再稼働計画は遅れ気味だ。
電力広域的運営推進機関によると、関電管内で新電力などの家庭向け新料金プランへの申込件数は、約6万件に上る。八木社長はこう打ち明ける。
「大変危機感を持っている。相当厳しい競争になる」
一方で電力小売りに参入を決めた大手都市ガス幹部は「原発の再稼働が進むと、大手電力と数社の新電力しか生き残れない」と危機感を募らせる。
ただ、日本国内における原発の再稼働は、九電の川内原発(鹿児島県)と高浜原発にとどまる。東電の柏崎刈羽原発(新潟県)をはじめ、福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)は、再稼働の見通しすら立たない。
再稼働が広がらなければ需給環境が改善せず、越境販売や新規参入などが活発にならない懸念もある。大手電力の値下げが進まず大手をベンチマーク(基準)にする新電力の料金体系にも影響を及ぼす恐れがある。
電力小売りの全面自由化で期待される価格低下やサービス向上といったメリットも、安定供給という大原則が果たされなければ本末転倒だ。いかにトラブルなく転換を果たすか。全ての電力事業者に細心の注意が求められる。
◇
この企画は大坪玲央、田辺裕晶、佐藤克史、大柳聡庸が担当しました。
関連記事