震災5年、新技術で「通信確保」 可搬型基地局、ドローンなど導入
東日本大震災で東北地方の通信環境が壊滅的打撃を受けてから5年。通信各社は回線の多重化や基地局の電源増強など非常時の通信復旧策に取り組んできた。小型無人機「ドローン」活用や衛星利用など先進技術の導入も進んでいる。
サミットでも運用
5月26、27日に三重県で開かれる伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)の主要会場となる賢島(かしこじま)。NTTドコモはこの風光明媚(めいび)な島の周囲の基地局3カ所に遠隔操作カメラによる「津波監視システム」と、GPS(衛星利用測位システム)を使って地殻の変化を捉える「地震予測システム」を装着した。
携帯電話の基地局に津波や地震の監視機能をもたせるのは初めての試みだ。2016年度中に全国16カ所に設置する計画だが、各国首脳が集まる沿岸地域の“守り”を優先して設置。4日から24時間態勢で運用を始めた。
中村政道無線アクセス企画担当課長は「いざというときに備え24時間態勢で臨む」と意気込む。KDDIも臨時基地局を設置してサミット会期中の通信に万全を期す。膨大な通信量に対応するため、メディアセンター横には通信大手3社の車載型基地局が並ぶ予定だ。
混雑時や障害時の復旧対策も進化している。ドコモは、NECやエリクソンなど内外の通信機器メーカーと2年前から実証実験を重ねてきた「ネットワーク仮想化技術」を実用化。9日に東京都の一部で商用サービスを開始した。複数メーカーのデータ交換用ソフトウエアを同じサーバー環境で稼働させる先進技術で、災害時のネットワーク復旧時間を大幅に短縮できるようになる。
仮想化技術の対象は、全国13万局の高速データ通信サービス「LTE」の一部。16年度から順次拡大し、17年度以降は音声通話ネットワークにも導入したい考えだ。
ネットワーク開発部の音洋行担当部長は「災害時には通信規制をかけるが、実験では20回に1回だったのが4回に1回まで向上した」と効果を説明する。災害時や混雑時のつながりやすさは最大5.7倍で、東日本大震災の際に何日も続いたつながりにくさは短時間で緩和されることになりそうだ。
ソフトバンクは9日、携帯電話の基地局が停止した被災地に搬入する衛星回線利用の可搬型基地局の設置訓練を千葉県柏市で実施した。災害対策室の米原裕雄課長は「ダウンした基地局を1秒でも早く復旧するのが使命」と話す。
同社は重量120キロの可搬型衛星基地局を合計200台保有するが、衛星基地局は約2割軽量化。衛星回線を5分ほどで自動捕捉し、基地局1台で携帯電話13台が利用できる。
実用化へ制度改正も
人が入り込めない危険地域の監視や物資の搬入など災害対策にドローンの活用も増えそうだ。KDDIはドローンを使い、携帯電話が使えない災害で孤立した地域で、住民の端末からメールを吸い上げて電波が通じる地域で送信するシステムを開発。実用化を目指している。
木佐貫啓特別通信対策室長が「移動する“基地局”はまだ法律上難しい」と指摘するように実用化には制度改正も必要となる。ただ、非常時のコミュニケーション手段には威力を発揮しそうだ。同社は携帯電話から出る電波をドローンで感知して、被災地で生き埋めになった人などを探す機能の実用化も検討している。
ドローン活用ではソフトバンクも非常用の気球型基地局の稼働状況観測に活用する方針。NTT東日本は通信ケーブルの点検にドローンを活用。4月以降は20キロのケーブルを搬送できる大型ドローンの導入も予定している。
携帯電話大手は東日本大震災後、3社合計で基地局約6000カ所を無停電化や24時間バッテリー化。重要施設の分散化や基幹網の多重化など非常時対策を進めてきた。データ通信量が震災前の約6倍(総務省調べ)に拡大するなか、新技術の活用で「通信確保」にさらなる知恵を絞っている。
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