終戦後から創意工夫を重ねた「えきそば」 うどんでも日本そばでもない姫路駅名物
■【兵庫発 輝く】まねき食品「えきそば」
1日10万人弱の乗降客が行き交うJR姫路駅(兵庫県姫路市)。最近は世界遺産・姫路城目当ての外国人観光客も多い。電車を降りてすぐに目に入るのが「えきそば」の文字。戦後の混乱期から現在に至るまで、駅の利用客から愛され続けてきた「姫路のソウルフード」だ。「姫路で育てていただいたからこそ、今のえきそばがある」。こう語るのは食品製造販売会社「まねき食品」(同市)の竹田佑一社長(70)。近年は姫路だけにとどまらず、関西圏を視野にえきそばの売り込みを本格化させるなど、攻めの経営にも着手している。
◆試行錯誤の末に
まねき食品の原点は1888年。姫路で茶店「ひさご」を営んでいた竹田木八が、山陽鉄道(現JR西日本)の兵庫-姫路間の開通に伴い、「まねき」の店名で姫路駅構内での弁当の販売許可を得たことに始まる。
翌年から、芝居見物の際の幕あいに食べる幕の内弁当にヒントを得た、幕の内駅弁の販売をスタート。おかずにはタイの塩焼きや焼きかまぼこ、タケノコやきんとんなど、当時としては高級な食材を取り入れ、にぎりめしが主流だった駅弁に新しいスタイルを提供した。
「それまでにないものを考え出す木八の発想こそ、常にチャレンジを続けるという創業精神の原点」と竹田社長。木八から数えて5代目だ。
駅弁と並んでまねき食品の代表的な商品となったえきそばも、出発点は同じ。何もないところから、試行錯誤の末にたどりついた産物だったという。
えきそばが姫路駅に登場したのは、戦後の混乱が続く1949年。終戦後、めん類の販売を計画していたが、原料の小麦粉が統制品で入手困難だったため、代用品としてこんにゃく粉に着目。そば粉と混ぜ合わせてうどんを製造し、和風だしを加えて商品化に踏み切った。
ところが販売してみると、うどんがすぐにのびたり、日持ちがしなかったりするなどの課題が表面化。日持ちをよくするための素材を探す中で、かんすい入りの中華麺と和風だしという異色の素材同士の組み合わせを発見。これに天ぷらを盛りつけるえきそばという解にたどりついた。
◆シンプルで奥深い
「えきそばは、だし、麺、天ぷらなどの具材が生命線。3つのうちの1つだけが突出しても味は保てない。素材のバランスが問われる商品でもある」と竹田社長。シンプルな料理だけに奥深いのだという。
さらに、人気の秘密はノスタルジックな味わいにもある。具材を少し高価にしてえきそばを提供したところ、「昔食べた味と違う」と指摘する客もいたという。物資不足の状況から創意工夫を重ねて生み出されたユニークな商品は、誕生から70年近くの時を刻む中で、多くの人々にとってかけがえのない味となっていたのだ。
姫路周辺では圧倒的な知名度を誇るが、その他の地域ではまだまだ。そうした状況を変えていこうと、まねき食品は近年、えきそばのPRに本腰を入れている。
2010年からは、大手食品メーカーの「日清食品」から「まねきのえきそば」シリーズと銘打ち、えきそばの味を再現したカップ麺商品を近畿2府4県で販売、好評を博している。今年4月27日には、JR元町駅(神戸市中央区)にえきそば店のオープンを予定。姫路以外にも積極的に出店する姿勢を見せている。
店員が列車の窓越しに販売していた立ち売りの時代を経て、駅構内の売店で立ち食い形式で提供するスタイルへ、時代に応じた変化をしてきた、えきそば。これからは「姫路以外での展開」という新たな変身を遂げようとしている。(荒木利宏)
◇
【会社概要】まねき食品
▽本社=兵庫県姫路市北条北川原953
▽創業=1888年
▽設立=1944年
▽資本金=4800万円
▽従業員=360人
▽売上高=26億1000万円(2015年8月期)
▽事業内容=会席料理・弁当・折り詰め・パーティー料理など食料品の製造・販売
≪インタビュー≫
□竹田佑一社長
■時代の変化に対応し伝統を継承
--「えきそば」と「幕の内駅弁」から始まる弁当販売事業が有名だ
「どちらもまねき食品にとって欠かせない強み。先人たちが培ってきた伝統の上に今の事業があるということを常に肝に銘じている」
--経営のモットーは
「『不易流行』という言葉を重視している。だしの作り方など、食品の根幹をなす部分は当然守り続けていかなければならないが、時代の変化に適応できなければ伝統を継承することも難しくなる。現状維持ではなく常に新しいことに挑戦し続けることで、伝統を守っていきたいと考えている」
--弁当販売事業に対するスタンスは
「昨年、イタリア・ミラノ万博で日本の食文化を代表する存在として『弁当』の紹介をしてきた。地域の運動会や花見、企業の社員大会などのイベントには欠かせない『弁当』に対する需要は今後も変わらないだろう。そうしたメモリアルな場面を支える質の高い商品をこれからもつくり続けていきたい」
--えきそばを販売する上で心掛けていることは
「えきそばを食べるお客さまは電車を乗り継ぐ合間に短時間で来店される方が多い。従業員にはスピード感を持って商品を提供するための効率的な作業を心掛けるよう指導している。また、基本的なことだが、質の高い食を提供する大前提は衛生面が万全であることだ。食中毒などを発生させないよう、手洗いなどを徹底している」
--えきそばの今後の展開は
「姫路周辺では認知度が高いが、これからは大阪や神戸などにも販路を広げ、より多くの方に味わっていただきたい。えきそばのカップ麺が好評で、関西圏での認知度は向上してきたと受け止めている。今後も『姫路のえきそば』として、地名といっしょに売り込んでいきたい」
◇
【プロフィル】竹田佑一
たけだ・ゆういち 慶大法卒。1974年、まねき食品に入社。常務などを経て86年から現職。創業者の竹田木八から数えて5代目。社員には3年後の会社の姿を思い描き、行動するよう呼びかけている。70歳。東京都出身。
≪イチ押し!≫
■地域の枠超え人気「但馬牛 牛めし」
紹介するのは「但馬牛 牛めし」と「名代 あなご寿司」。「人気商品と定番商品をご紹介したい」と竹田社長おすすめの商品だ。
「但馬牛 牛めし」は、ごはんの上に盛りつけた但馬牛をメインに、淡路産のタマネギ、ゴボウ、コンニャクなどの具材を盛りつけたボリューム豊かな一品。全国のデパートで開催される「駅弁大会」に出品されたほか、JR東京駅構内の売店でも販売されるなど、地域の枠を超えた人気商品となっている。
「名代 あなご寿司」は白焼きにしたアナゴを特製のたれにつけて軽く炊き上げ、すし飯の上にのせたもの。アナゴとすし飯の間に甘辛く炊いたシイタケとサンショウをはさみ込み、隠し味的な効果を加えている。価格は「但馬牛 牛めし」が1150円、「名代 あなご寿司」が1800円(いずれも税込み)。
関連記事