伊藤園「健康ミネラルむぎ茶」(下)社内資格制度で聞く消費者の声
開発物語≪TEAM≫
原料と焙煎の特性を知り尽くすことから始まる-。伊藤園が麦茶開発で定めた犯すべからざるおきてだ。飲料メーカーには珍しく原料の加工工場があり、開発者は原料から最終的な飲料に至る幅広い分野に精通している。
研究所にこもり、ひたすらフライパンで麦を煎り続けることもあれば、工場に赴いてロースターの前に陣取り、大量生産が可能か確かめることもしばしば。香り、蒸気、音、煙、色。研究所と工場の両方で、それらのすべてを体感しつつ身につけた知識の深さは、他社の追随を許さない。
知識の深さは、ある社内制度からもうかがえる。
今年2月、健康ミネラルむぎ茶の開発にあたる開発二部第一課の井上雅彦さんは、茨城県水戸市のスーパーへ赴いた。消費者に試飲を促し、商品をPRするためだ。
伊藤園には、1994年に導入した「ティーテイスター」と呼ぶ社内資格制度がある。資格を取るには、筆記と「利き茶」、面接の各試験に合格する必要がある。1級から3級まであり、昇級するごとに難易度は上がっていく。
有資格者は、年に数回、各地のスーパーなどに出向き、啓発活動に取り組むことになっている。この活動は大茶会と呼ばれ、井上さんが参加したのもその一つだ。7月には、日光東照宮や厳島神社といった世界遺産で、社員が計200人にお茶を振る舞うことも計画している。
井上さんは大茶会を、啓発やPR以外の点でも有意義と感じている。「消費者がどういう商品を求めているか、自分にフィードバックされる」からだ。
ティーテイスター制度や大茶会は、社員が知識を深める貴重な場であるとともに、経営理念に「お客様第一主義」を掲げる伊藤園らしい取り組みともいえる。
ちなみに、1級のティーテイスターは、8000人いる社員の中でも12人しかいない。井上さんは現在2級。「いつか1級を取りたい」と、仕事以外でも知識習得に励んでいる。
井上さんら開発メンバーはふだん、静岡県牧之原市の相良工場にある中央研究所で商品開発に当たっている。営業担当者やマーケティング担当者とやり取りし、市場ニーズをくみ取る機会はあるが、消費者と直接的に接する機会となると多くはない。大茶会は「消費者と接する貴重な機会」だという。
誰よりも麦茶に詳しくなければ、工場の担当者とコミュニケーションを取ることも、麦のおいしさを引き出すこともできない。原料にあった焙煎方法を見つけるための井上さんらの挑戦は続く。
◇
≪MARKET≫
■5年で市場2倍 ヘルシー志向後押し
麦茶の歴史は緑茶以上に古く、平安時代の貴族や戦国武将も愛飲していたという。一般に飲まれるようになったのは、江戸時代に入り、屋台の「麦湯売り」が流行してからだ。
冷やして飲む習慣が定着したのは、冷蔵庫が普及し始めた昭和30年代で、間もなく麦茶という言葉も根づいた。
当初はティーバッグを家庭で煎じて飲むケースが大半だったが、やがて飲料メーカーが缶入りやペットボトル入りの飲料を相次ぎ発売。外でも気軽に飲めるようになり、市場はさらに広がった。
伊藤園によると、麦茶飲料(ティーバッグを除く)の直近の市場は700億円と5年前の2倍に拡大し、茶系飲料の1割弱を占めた。今も2桁の伸びを示しているという。
市場拡大をもたらしている要因の一つに、健康志向の高まりがある。メーカーではここ数年、運動時や飲酒のときの水分補給に最適なことや、カフェインを含まず子供が安心して飲めることをアピール。結果、夏場の飲み物という従来イメージを保つ一方、通年商品としても認識され始めている。
伊藤園が麦茶飲料で5割のシェアを築くことができたのは、味にこだわっただけでなく、CMなどでこうした点を率先して訴えてきたからでもある。
◇
≪FROM WRITER≫
取材当日、伊藤園の中央研究所がある静岡県牧之原市は、夏を先取りしたかのような、汗ばむほどの陽気に包まれていた。日本有数のお茶どころだけあって、新緑の茶畑が広がり、陽光に照り輝く光景は、絵画のように美しかった。
取材後に再びそこへ立ち寄り、景色を堪能しながら健康ミネラルむぎ茶を飲み干した。伊藤園は開発にあたり、やかんで煮出した甘く懐かしい味を目指したという。確かに、自然の中を駆け回った子供時代の思い出がよみがえり、何ともいえない幸福感に包まれた。
私に限らず、日本人の多くは麦茶に何かしらの思い入れがあるのではないか。伊藤園は、味はもちろん、そうした体験や思い出をも実現しようとした。消費者の視点に立つ姿勢こそ、トップにいる最大の理由かもしれない。(井田通人)
◇
≪KEY WORD≫
■健康ミネラルむぎ茶
伊藤園が1988年から販売している麦茶飲料。大麦の香ばしさとすっきりした甘さが特徴で、約5割の圧倒的なシェアを持ち、長年にわたりCMに落語家の笑福亭鶴瓶さんを起用してきたことでも知られる。カリウムなどのミネラルを多く含み、夏場や運動時の水分補給に適しているうえ、ノンカフェインで子供や妊婦も安心して飲める。近年も、ホット専用タイプや冷凍ボトルタイプを加えるなど、商品ラインアップを相次ぎ拡大している。価格は中心商品の650ミリリットルのペットボトルで130円(税別)。
関連記事