伊藤園「健康ミネラルむぎ茶」(上)香り+甘さでトップに磨き

開発物語
「健康ミネラルむぎ茶」は市場で約5割の圧倒的なシェアを持つ

 ≪STORY≫

 夏が近づき、冷たい飲み物が手放せない季節になってきた。今年は例年以上に暑くなると予想されるだけに、夏バテ防止の麦茶が特に重宝しそうだ。その麦茶でトップブランドの地位に君臨するのが、飲料大手の伊藤園が開発・販売する「健康ミネラルむぎ茶」。今年3月には大胆ともいえるリニューアルを敢行し、その地位をさらに盤石なものにしようとしている。

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 「やかんで煮出した昔ながらの懐かしい味」。今回のリニューアルで伊藤園が目指した理想の姿だ。最大の魅力である香りの良さに加えて、甘さを強く打ち出すことを狙った。

 子供の頃、学校から家に帰ってすぐに冷蔵庫の扉を開き、冷やしてあった麦茶を一気に飲み干した経験はないだろうか。そしてあまりのおいしさに感動し、今も忘れられないと懐かしむ人は少なくないはずだ。

 実際、やかんで煮出すとでんぷんが変化して甘さが増し、さらにおいしく感じるのだという。伊藤園は、そんな日本人の原体験を、飲料でも再現しようとした。

 「二条大麦を使おう」

 翌年のリニューアルに向けた開発が始まった昨年2月、開発二部の忌部東洋第一課課長は部下の井上雅彦さんや第三課のメンバーにそう語りかけた。伊藤園では、第一課がペットボトルなどの飲料、第三課がティーバッグの麦茶を担当している。

 麦茶は、焙煎した大麦の種子を煎じて作る。原料には六条大麦を使うのが一般的だ。忌部課長は、そこに二条大麦を新たにブレンドすることで、さらに味が良くなると考えていた。

 「やりましょう」。他のメンバーもその提案に二つ返事で応じた。全員が同じことを考えていた。

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 健康ミネラルむぎ茶は、毎年のようにリニューアルを重ねている。時代とともに変化するニーズや嗜好(しこう)に合わせていかないと、消費者はすぐにそっぽを向いてしまうからだ。

 「甘さを強めてほしい」

 実際、高い顧客満足度を誇る一方で、消費者からはそうした声も寄せられていた。二条大麦を原料に使うアイデアは、従来の魅力に磨きをかけつつ、甘さを打ち出すという難問に対する開発陣の解答案だった。

 二条大麦を使うアイデア自体は数年前から存在していたが、理想の味にならなかったためにいったん採用を見送っていた。着手前から難航が予想されたが、それでも再びトライすることにした。

 六条大麦は、タンパク質を多く含み、焙煎するとそれが焼けて香ばしくなる。一方、ビール醸造にも使われる二条大麦は、でんぷんの比率が高く、甘みやコクを引き出すことができる。両者をそれぞれ焙煎した後でブレンドし、煎じれば、強みが最大限に生きた究極の麦茶に仕上がる。

 だが、品種が変わるだけで製法はがらりと変わる。例えば二条大麦を六条大麦と同様に焼くと、「焦げやすく、均一に焙煎するのが難しいので、甘さも引き出せない」(忌部課長)。特に、味や香りを決定づける焙煎方法の選定には細心の注意を要した。

 たとえば、甘さを十分に引き出すために、比較的低い温度で、長い時間をかけて芯までふっくらと焙煎することにした。とはいえ、あまり時間が長いと甘さが残りすぎてしまい、健康ミネラルむぎ茶本来の、すっきりとした味わいが損なわれてしまう。大量生産も難しくなる。

 そこで試行錯誤の末、最後に温度を上げ、表面を香ばしく焼き上げることで、適度な甘さと香ばしさ、キレのよさを両立させるのに成功した。

 一方、原料のバランスも考える必要があった。いくら甘くするといっても、二条大麦の量を増やしすぎると、今度は六条大麦の持つ香りが損なわれてしまう。

 井上さんは「(香りと甘さは)相反する関係。なのに、(会社は)甘さを出して、香りもさらに良くしてほしいという。とても難しかった」と振り返る。

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 そうして何とかレシピを完成させたが、むしろ工場で作れるよう落とし込むのがそれ以上に大変だった。伊藤園は、飲料大手には珍しく、自前の焙煎工場を持つ。中でも、静岡県牧之原市にある麦茶専用の坂口工場は、日本最大規模の巨大なロースター(焙煎機)を備える。このロースターは大量生産に適しているだけではない。麦を十分に蒸してから2回焙煎する「二段焙煎」と、熱した空気を利用して焦がさずに焙煎する「熱風焙煎」を駆使することで、六条大麦の香りをより引き出すことができる。

 伊藤園はその強みを生かしつつ、二条大麦の焙煎に別の工場を併用することにした。その工場は、熱風焙煎のみを採用していた。ドラム式洗濯機のように、羽根で熱風を送り込み、空気を攪拌(かくはん)しながら焙煎するやり方で、振動が比較的少ないため、外の皮が剥がれやすい二条大麦にはうってつけだ。ほかにも数機のロースターを組み合わせて、原料ごとに適した生産体制を構築することで、1年後にようやく「模範解答」までたどり着いた。忌部課長は「発売後のモニター調査では、考えた通りの結果が出ている」と満足そうに話す。

 販売不振でてこ入れの必要があるならともかく、好調なのに大幅なリニューアルを行うのはリスクが大きい。だが、伊藤園は躊躇(ちゅうちょ)なくそれに踏み切った。「現状維持に甘んじていたら、すぐにトップから滑り落ちてしまう」(忌部課長)。ライバルは他社ではなく、あくまで自分自身だと考えている。