次世代がん治療装置、日本勢が世界をリード 再建中の東芝も手放さず

 
東芝と放射線医学総合研究所が開発した世界初の超伝導技術を用いた重粒子線がん治療装置(東芝提供)

 国内電機大手が、次世代のがん治療装置とされる「粒子線がん治療装置」で市場拡大を急いでいる。日立製作所や三菱電機、東芝などが手掛ける重粒子線治療装置は、日本が技術力や治療患者数で世界をリードしており、同分野で国内勢のシェア拡大が期待できそうだ。

 「重粒子線がん治療装置は成長領域だ」

 東芝の綱川智新社長は、こう期待を寄せる。経営再建中の東芝は、医療機器子会社だった東芝メディカルをキヤノンに売却した。だが、重粒子線治療装置事業は手放さなかった。現在、事業の3本柱と位置付ける原発や半導体、社会インフラに続き、重粒子線治療装置が将来の事業の柱になりうると見込んだからだ。

 放射線治療の一種にあたる粒子線治療装置は、大型加速器を使って、水素や炭素の原子核など極めて小さい粒子を患部に照射し、がん細胞をピンポイントで攻撃する仕組み。X線などを使う従来の放射線治療に比べ、副作用が少なく、体の奥深くにある病巣にも使用できるなどの利点があるという。

 海外勢は、水素の原子核を用いる陽子線治療装置が中心だ。一方、炭素などより重い粒子を用いる重粒子線治療装置は、陽子線治療装置に比べ照射回数などが少なくて済むメリットがある。陽子線治療装置で1日30分、30回の照射が必要なケースが、重粒子線治療装置では10回で済むという。

 東芝は1月、超電導電磁石を世界で初めて採用し、腫瘍に対しあらゆる角度から重粒子線を照射できる小型・軽量の装置を開発した。今後、海外での受注を目指す。

 一方、陽子線と重粒子線の両方を手がける日立は、陽子線のビームを絞り込み、腫瘍の形状に合わせてピンポイントで照射を繰り返す「スポットスキャニング照射技術」で先行する。放射線治療システム事業部の中村文人事業部長は「3年後にシェア3~4割まで上げ、トップを目指したい」と意気込む。このほか、三菱電機や住友重機械工業も、北米やアジアの開拓に力を入れている。

 粒子線治療装置の世界市場は2030年に年間1200億円となり、放射線治療機器全体の約3分の1を占めるとの試算もある。世界市場では現在、ベルギーのIBAがシェアトップだが、同社は重粒子線を扱っていない。重粒子線技術を持つ国内勢が逆転するチャンスは十分だ。

 政府は6月にまとめた「日本再興戦略2016」で、日本発の優れた医療機器のグローバル市場獲得を目標に掲げた。今後、国内勢が海外への普及を加速するには、現地の医療事情を踏まえた資金調達支援や、保守サービス体制の構築などが課題となる。(黄金崎元)