ポケモンGOは危険なゲームか? 予想以上の爆発力、現実と架空の世界が近づく
スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」の無料配信が22日、日本でも始まった。先行配信された欧米などではすでに爆発的人気を呼んでいる。架空の生き物「ポケモン」を現実世界で探し歩く新しい遊び方で、利用者数を記録的に伸ばす半面、熱中のあまり事故や事件が多発し、所構わず出没するプレーヤーのマナー違反に多くの人々が眉(まゆ)をひそめる。今年5月、開発者でもある株式会社ポケモンの石原恒和社長は産経新聞のインタビューに対し「ゲームと現実の境目が取っ払われ、ポケモンのビジョンに近づく」と期待感を示していた。世界中で鳴り響く「狂想曲」を予想していただろうか。(牛島要平)
祈りの場で「ポケモン」探し回る無礼
米ワシントンで、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺の犠牲者を慰霊するホロコースト記念博物館。静かな祈りに包まれるはずのこの場所で7月上旬、展示そっちのけでスマホを手に遊びに興じる姿がみられるようになった。
「ナチズムの犠牲者を慰霊する場でゲームを遊ぶのは不適切だ」。博物館はそうコメントした。
同様の事態は戦没者が眠るアーリントン国立墓地でも起き、同墓地が「この場にふさわしい礼儀作法ではない」とツイッターで声明を出した。
訪問者が遊んでいたのは、米国では7月6日に配信開始された「ポケモンGO」。衛星利用測位システム(GPS)などの位置情報を利用して、スマホの地図上に表示された位置まで移動すると、スマホの画面に映し出された現実の風景にポケモンが出現し、捕獲や対戦ができる。
ポケモンのブランド展開を行っている株式会社ポケモン(東京)が米ゲーム会社「ナイアンティック」、任天堂と共同開発した。現実世界に映像などの情報を付加する拡張現実(AR)の技術を駆使して、ポケモンが実際に存在する感覚を生み出し、ブームに一気に火が付いた。
米調査会社「サーベイ・モンキー」によると、米国で「ポケモンGO」の1日の利用者数は配信開始1週間で約2100万人に達し、2013年に約2千万人を記録した「キャンディークラッシュ」を抜いて、スマホ向けゲームとしては歴代首位に立った。
「危険なゲーム」との認識広まる
ただ、ホロコースト記念博物館のように、人気の過熱ぶりが各地でトラブルに発展している。
英紙「メトロ」によると、多くのユダヤ人が犠牲になったポーランドのアウシュビッツ強制収容所の跡地に立つアウシュビッツ・ビルケナウ博物館でも遊ぶ姿がみられた。同博物館はナイアンティックのジョン・ハンケ最高経営責任者(CEO)にツイッターで「この施設を遊び場に指定するのは止めなさい。極めて失礼な行為です」と抗議した。
スマホ画面に夢中になって私有地や病院に不法侵入するなど迷惑になっているだけでなく、歩行中に転倒して負傷したりするケースが続出。「危険なゲーム」との認識が急速に広まりつつある。
米CNNなどの現地報道によると、米ニューヨーク州では、男性がゲームをしながら車を運転し、道路を外れて木に衝突した。カリフォルニア州では、20代の男性2人が崖(がけ)から転落して負傷した。
ミズーリ州では、10代の男らが、ゲームが指示する地点でプレーヤーを待ち伏せし、銃を突き付けて所持金などを出すように脅迫したとして、身柄を州警察が拘束した。相次ぐトラブルを受け、米国各地の警察は「安全をよく確認して遊ぶように」と呼びかけた。
英国では全国児童虐待防止協会が「ポケモンGOは基本的な安全基準を無視している。子供を守るための安全策を見直すべきだ」とする緊急声明を発表。公式サイトに「小さな子供には同伴を」などとする保護者向けガイドを公開した。
「ポケモンGO」は14日に英国で、16日には欧州26カ国で一気に配信が始まった。日本国内でも22日午前に配信が始まったが、このままでは海外と同様のトラブルが発生する可能性は否定できない。
「爆発力」は予想できたのか?
「ゲームと現実の境目が取っ払われ、ポケモンのビジョンに近づく。この遊びが生み出す爆発力はまだ未知数だが、これまでにないゲームが生まれつつあるという予感はしている。どのくらい世界中で広まっていくか楽しみ」
株式会社ポケモンの石原社長は5月に産経新聞のインタビューに応じた際、開発中の「ポケモンGO」にかける期待をそう語っていた。
平成8年に第1弾のゲームソフトが発売されて今年20周年を迎えたポケモン。一人で遊ぶだけでなく、集めたポケモンをプレーヤー同士で対戦させたり、交換したりするのが特徴だ。
石原社長は「ポケモンの役割は、ゲームの世界の遊びと、現実世界のおもしろさの融合」と強調。家に引きこもるのではなく、外に出て友人や家族との関係を深めていけるゲームを実現したいと話した。
その石原社長も、ここまでの「爆発力」を予想していただろうか。米ミシガン州では、指名手配犯がプレーに夢中のあまり警察署前をうろつき、逮捕されたという。良くも悪くも、ポケモンの影響力は開発者の手を離れて拡大している。
世界に拡大する混乱を受け、株式会社ポケモンの広報担当者は7月12日、「事実を確認中。安全対策を検討している」と語った。ナイアンティックはホームページで、「プレー中は周りのプレーヤーや、いあわせた方々に対して尊重と礼儀をもって応対し、適切なマナーで行動してください」とするガイドラインを掲載した。
「公園に行けば(ポケモンの)ピカチュウに会える」「池のそばに(水辺に暮らす設定の)みずタイプのポケモンがいるよ」などと子供が親を散歩に誘う夢を石原社長は話してくれた。本当に安心して楽しんでもらうために、行政や警察、地域との連携など、もう一段乗り越えなければならないハードルがあるようだ。
関連記事