五輪報道、主役はテレビからネットへ 桁違いに増えた配信時間

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リオ五輪アリーナでの練習を終えスマートフォンの自撮りで記念撮影する体操日本代表選手ら。会場では選手、観客ともスマホで自ら情報を発信・交換する姿が目立っている=3日

 熱戦が続くリオデジャネイロ五輪も、もう終盤にさしかかった。日本選手の活躍も大いに手伝って、報道にも熱がこもっている。

 今回、これまでと大きく異なるのはインターネットによるオリンピック報道だろう。

 いや歴史をたどれば、1996年アトランタから公式ウェブサイトが始まり、2000年シドニーでネット中継がクローズアップされた。ただし、選手の意見発信は封じられていた。

 それが、12年ロンドンでは携帯端末とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の広がりから、『ソーシャリンピック』の異名をとる。国際オリンピック委員会(IOC)は条件付きながら、大会期間中の選手のSNS使用を容認した。

 (1)一人称、日記形式 (2)オリンピック憲章の遵守 (3)商業目的の厳禁 (4)競技リポート、他選手への言及の禁止 (5)会場、選手村などでの動画投稿の禁止

 これらを守れば、大いに意見発信できる。ネットに大きな注目が集まった理由だった。

 ◆相乗効果に期待

 テレビとの関係においても大きな変化がみられた。

 米国での放送権を有するNBCは陸上、水泳、体操など、米国で人気のある競技以外はテレビで生中継せず、ネットによる中継を実施。特設サイトは20億ページビュー(PV)、ストリーミング映像の視聴は1億5900万回を記録した。注目は、テレビ視聴も増えたことだ。携帯端末やパソコンでの視聴がテレビ視聴にも好影響を与え、総視聴者数は史上最多の2億1940万人を数えた。

 ロンドン五輪では日本でもNHKや民放各局がサイトを特設した。しかし、サイト自体の存在を知る人が少なく、NBCほどの効果をあげ得なかった。

 NHKにしても民放にしても今回、テレビ中継のなかで盛んにインターネットサービスの利用を視聴者に呼びかけている。テレビとネットの相乗効果を期待する様子が見て取れよう。

 NHKは20年東京大会を意識し、実験的に総合テレビで放送する番組を同時にネットでも流す「同時配信」を始めた。特設サイトでは、地上波で放送されない競技種目を現地音声のみの生中継、ライブストリーミングで約2000時間、ハイライトを約2300時間配信する。

 民放も132社の共同サイト「gorin.jp」で、ライブストリーミングを約2500時間、2000本以上のハイライト動画を流す。いずれも、携帯端末やパソコンで情報を得る若い年齢層を狙った試みだ。

 ◆2500時間超配信

 「gorin.jp」を制作・運営するプレゼントキャストは、08年北京大会からこのサイトを設けている。しかし、リオは明らかにこれまでと趣が異なる。プレゼントキャストの須賀久彌社長は試みをこう話す。「これまでライブストリーミングは1日2チャンネルのみ、ロンドンでは405時間程度だったが、リオではあらゆる競技を対象に2500時間以上と大幅に配信を増やした。大量にある映像で日本をオリンピック一色にする試みは、2020年をいかに盛り上げていくかにつながっている」

 ところで、こうしたインターネットの権利と従来の放送権とはどんな関係になっているのだろうか。日本民間放送連盟の本橋春紀業務部長は「最近の契約はほとんどの場合、インターネットなどを含む『メディア権契約』として結ばれている」と論文に書く。ネットをめぐる権利契約も進み始めている。

 IOC自体、リオの閉会式終了直後から視聴可能な「オリンピックチャンネル(olympicchannel.com)」の運用を開始、携帯端末やパソコンへの五輪情報、映像を提供し始める。アクセスは無料だ。対象はテレビを見ない層、SNSで情報を取ることに慣れた世代。オリンピック、スポーツ離れ阻止への対応である。

 ネット、とりわけ携帯端末との連動はスポーツ報道のありようを変えるだろう。小覧もJリーグと世界的な動画配信大手、英国パフォームとの放送権契約について紹介したが、結局17年から10年間、契約金総額2100億円もの大規模契約となった。携帯端末の広がりなど、ネットによる生中継の広がりへの期待が大きい。すでに米国では大リーグがネット配信に着手、大きな収入を生んでいる。

 いずれスポーツ報道はネットが主役になっていく…。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)