酪農も婚活もAI活用の時代 発情期を推論 5年間見合い不調が一転
今年3月、囲碁ソフトが世界トップクラスのプロ棋士を打ち負かして世界に衝撃を与えた。人工知能(AI)が社会や職場を脅かすとの懸念がある一方、日常生活への浸透は避けられない。農業や婚活といった身近な分野で新技術が既に変化を起こし始めている。
◆牛の個体差から分析
北海道・十勝地方の中央部にあり、約300頭の乳牛が草をはむ士幌町の山岸牧場。20歳で牧場を継いだ山岸拓(34)は今年8月、雌牛の首に行動を1日24時間記録するセンサーを取り付けた。午前4時半に起きてスマートフォンで牛の状態を確認するのが日課だ。8月20日は「2100番(牛の個体識別番号)の発情兆候が強い」との通知が届いていた。
早朝の牛舎でその牛に目をこらしたが、発情を示す動きはなかった。だがセンサーが収集したデータを分析するAIは未明から活発化した動きを発情の兆候と判断した。山岸は「別の牛にいじめられて一時的に動きが増えたのでは」と疑ったが、生殖器官を調べたところ、AIの指摘通りに発情していた。人工授精を施し、うまくいくと来年5月には子牛が生まれる。乳が多く出るのは出産後の数カ月に限られるため、できるだけ発情期を逃したくない。
センサー導入前は、歩数計や搾乳量を参考にしていた。しかし歩数計では微妙な動きの見極めに限界がある。このため、牛の鳴き声を聴き、人や別の牛に体をすり寄せる様子を観察するなど感覚を総動員して発情兆候を探っていた。夜中に始まる発情を見逃すことを恐れて牛舎に泊まり込む酪農家もいる。
農林水産省によると、発情期を見落とすと乳牛1頭当たり年間300キロの生乳が採れず、国内では年間260億円の損失となる。
帯広市の農業関連IT企業「ファームノート」は牛の前後、左右、垂直の3方向の動きを記録するセンサーを開発。AIが活動量、反芻(はんすう)時間、休憩時間などを計算し、いつもと様子が違う牛をスマホに通知する。
AIは、よく動く牛やおとなしい牛といった個体差を学習する。データが増えると発情期を“推論”する精度は高くなる。同社社長の小林晋也(36)は「AIは牛の発情そのものは理解しないが、発情期の行動パターンを見いだす」と解説する。
国内の酪農は搾乳量や繁殖率の低迷に加えて、後継者不足など課題が山積。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)による外国製品の参入も現実味を帯びてきた。山岸は「何かしないと日本の乳製品がなくなってしまう。不安だからこそ、新しい技術を導入して闘っていく」と決意を込めた。
◆好みの似た異性紹介
愛媛県から事業委託を受けた「えひめ結婚支援センター」に介護職の佳子(42)=仮名=が登録して5年が過ぎた。毎月通い、タブレット端末で男性会員を検索する。25人ほどに会ったが交際に至らず、自信をなくしていた。
転機が訪れたのは今年5月。年収を重視した条件検索では出てこなかった年下の男性が画面上に表示された。喫茶店での初対面で話が弾み、誠実さに好印象を受けた。「5年間お見合いをして、出会えて良かったと初めて思えた人だった」
交際を始めて1カ月。センターからの連絡で、紹介にAIの機能が使われたことを知り驚いた。従来は年齢や職業などの希望条件を入力して、相手を絞り込む方式だった。しかし、出会いのきっかけをさらに広げようと、センターは昨年3月にAIを本格的に導入していた。
新たなシステムでは、登録者の膨大な婚活履歴を利用する「ビッグデータ解析」を採用。ある登録者がお見合いしたいとリストアップした相手に関心を寄せた人たちを、好みが同じグループと見なす。そのグループの人たちがリストアップした会員や、グループの人をリストアップした会員の中からお見合い相手を抽出して提示する。
大手通販サイトで「この商品を買った人はこの商品も買っています」と表示されるように、意識はしないが好みが似た異性を紹介してくれる。AI導入で、お見合いを申し込んだ際に相手が承諾する確率が13%から29%に上昇した。行動履歴のデータ蓄積が進むほど、好みの相手を表示する精度が高まる。
佳子は男性にAI機能が使われていたことを打ち明けた。反応はいまひとつだった。結局、別れることになったが、佳子は「AIはあくまできっかけ。人間関係を築くのは自分たちがすること」とからっと話す。「もしかしたらこれで良い人に会えるかも」と次の紹介に期待を寄せる。
システムを開発した国立情報学研究所(東京)の宇野毅明教授は「恋愛という理解しづらい心理に挑むのは面白かった」と振り返る。婚活対策に詳しい全国地域結婚支援センターの板本洋子代表理事は「未婚率が高まり、ほとんどの地方自治体が婚活事業をする中で、愛媛県の取り組みへの関心は高い」と評価している。(敬称略)
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