オムロン、「シーテック」で“未来テクノロジー”をアピール
■卓球ロボット「フォルフェウス」公開
オムロンは、幕張メッセ(千葉市美浜区)で4~7日に開かれた電子機器見本市「シーテック」の会場でギネスの世界記録に認定された卓球ロボット「フォルフェウス」を公開するとともに、同社の中期的な技術展望で実現する“未来テクノロジー”をアピールした。同社は、社会の発展に貢献してきた“センシング”や“コントロール”といった技術に、人の知恵やノウハウを意味する「Think」を加えた。これらの技術を武器に、社会の課題解決などに取り組んでいくという。「IoT」や「AI」が注目されている中で、“人と機械”にはどんな未来が待ち受けているのか。その一端がオムロンの取り組みから垣間見える。(青山博美)
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■出展コンセプトは「+Think」
今年で17回目の開催となったシーテック。「IT・エレクトロニクスの総合展示会」という位置づけだった同展示会は、今回から「CPS/IoTの総合展」として生まれ変わった。CPS(サイバーフィジカルシステム)とはフィジカル空間(実世界)にある多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術などを駆使して分析、知識化し、そこで創出した情報、価値を活用して産業の活性化や社会問題解決を図ろう、というもの。情報化社会の深化と連動し、ライフスタイルと産業構造を変える可能性を持った技術やサービスにスポットを当てていく。
こうしたなかで今回、オムロンは「+Think」という出展コンセプトを掲げた。
同社は、さまざまな産業の製造現場で、多種多様なセンサーやコントローラーなどを活用しながら生産性の向上などに挑戦してきた。そのスキルや経験をAIに託し、より難易度の高い課題の解決に挑んでいる。その一端を披露しよう、というわけだ。
実際に、展示からもその一端はうかがえる。例えばギネス世界記録に「最初の卓球コーチロボット」として認定された「フォルフェウス」は、最先端のAI技術「時系列ディープラーニング」を実装。卓球ラリーの最中に対戦相手の卓球の上手、下手を瞬時に判断、相手のレベルに合わせた返球を行うことで、対戦相手の成長を図る。
機械が人の目的に合わせる“協働”から、機械が人を理解して、人に最適な支援を行う。そして、人の能力を高める“融和”へと進化した未来を表現するコンセプトマシンといえる。
◆「モバイルロボットLD」登場
こうした技術は、早くも実用の段階を迎えている。
オムロンが来年1月に発売する搬送ロボット「モバイルロボットLD」は、独自のAIを搭載。人や障害物を避けながら最適なルートを自ら考え、決められた場所に荷物を届ける。工場や倉庫、研究施設など、さまざまな環境下での利用が見込まれている。
搬送ロボットは、あらかじめ設定されたプログラムに従い床に引いたライン上を移動する、といったものが一般的だ。移動する場所の地図入力や設定に手間がかかるといった課題もある。
その点、「モバイルロボットLD」はレーザースキャナーで自ら動作環境を把握し、移動可能な範囲の地図を自動的に作成する。地図とスキャナーの測定結果を照らし合わせて自らの位置を特定、人や障害物を避けつつ最大130キログラムの搬送物を運ぶ。こうしたロボットを生産ラインに投入することで、生産ラインのレイアウトは自由度が高まるとともに、生産品目に合わせて自動的にライン構成を変更する、といったことも可能になる。
◆脳・心血管疾患ゼロへの挑戦
こうした“自ら考える機械”は、人の行動、特にミスを防ぐための支援などにも活用されつつある。今年6月に発表した「ドライバー運転集中度センシング技術」は、画像センサーなどで得た膨大なデータベースをもとに、AIが運転者の集中度を判断する。ディープラーニングと呼ばれる“学習”を機械自らが積み、高い精度で事故の防止に貢献しようというものだ。
一方で同社は、センサー技術の高度化にも余念がない。
46個のセンサーを一列に並べ、半導体や集積回路技術などを結集して開発した独自の圧力センサーを活用するなどして、手首だけで1拍ごとの血圧値を測定する技術を確立した。
今後こうした技術を実用化し、脳・心血管疾患の発症ゼロに向けて挑戦するという。
「オムロンには、さまざまなセンサーやコントローラーの組み合わせから得られるデータの強みとそれを活用するための膨大なノウハウがある」(宮田喜一郎・執行役員常務)
“知恵を与えられた機械”による社会の課題解決。そんなオムロンの挑戦がいよいよ本格化する。
■熟練工のノウハウや経験をAIに託して “人と機械が互いに成長する未来”への挑戦
“人と機械が互いに成長する未来”を目指して挑戦を続けるオムロン。これまでも、交通信号の高度化による道路交通の円滑化や工場の生産ラインの自動化、鉄道駅務の効率化を実現する自動改札機の普及などを通じて産業や社会の発展に貢献してきた。そんな同社は目下、「モノづくり(産業)」「ヘルスケア(健康関連)」「モビリティ(自動車関連)」の3分野に対して重点的なアプローチを見せている。いずれも、これまで培ってきたセンシングやコントロール技術をベースに、顧客と密着して蓄積してきた多様な産業に関するノウハウを最大限活用していくという点がポイントだ。そのカギを握るのはAI。ノウハウの活用についてはAIが積極的に投入されている。この一連の取り組みが秘める可能性は大きい。
同社の工場では、生産ラインの生産性は熟練工に宿るスキルと経験が発揮されていくことで時間とともに向上していくという。日本の産業は、こうした熟練工を擁する高い現場力に支えられてきた。高い現場力は、高い生産性とともに世界最高水準の品質確保にも大きく貢献してきた。
一方、こうした熟練工は時代とともに減少。海外拠点などでは十分に熟練工が確保できない、といったケースもある。しかし、「熟練工のノウハウや経験をAIに託すことで、次代の生産ラインは自動的に生産性を高めていける」(宮田喜一郎・執行役員常務)と期待されている。
さらに同社は、個々のセンサーが発信する膨大なデータを自由に流通させ、その活用を促す「センシングデータ トレーディング マーケット(SDTM)」の創出を構想。さまざまなセンサーやコントローラーの組み合わせから得られるデータの強みとそれを活用するための膨大なノウハウがある。個人や個別企業などが保有しているデータを流通させることができれば、ひとつの大きなインフラになり新しいビジネスが生まれる可能性があるとみている。例えば、個人の生体データと自動車の運転データを複合的に使えば個別の自動車保険料算出なども可能になる。重点3分野が連携する形での新たなサービス創出なども期待できそうだ。
機械でできることは機械に任せ、人はよりクリエーティブな仕事を…。
オムロンが描く“人と機械の未来”は快適でおもしろい。
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