パナのデジカメ「LUMIX」15年 スマホ普及で逆風も…新戦略に高評価
パナソニックのデジタルカメラ「LUMIX(ルミックス)」シリーズが11月で販売開始から15年を迎えた。後発組だったが、手ぶれ補正などの新技術を次々と開発。デジカメの世界販売台数がピークを迎えた2010年代を代表するブランドに成長した。ただ近年は、手軽に撮影できるスマートフォンの普及でデジカメは苦戦。ルミックスも次の一手を求められている。(板東和正)
「3周遅れ」から
「これからはデジカメの時代。この分野で勝つ」
松下電器産業(現パナソニック)の中村邦夫社長(現相談役)が、社内で大号令をかけたのは平成12年秋だった。
家庭で手軽に写真データの加工やプリント印刷ができるパソコンの普及などにより、デジカメ市場は国内外で急成長。出荷台数は年間1千万台を超えていた。
同社関連会社も数年前からデジカメを手掛けていたが、販売は今ひとつ。国内外でそれぞれ百万台以上の販売実績があったキヤノンやオリンパスなどと比較すると「周回遅れどころか、3周遅れだった」(パナソニック幹部)。
それでも、中村氏は「本気になれば、世界でトップシェアを獲得できる」と強気だった。同社は昭和60年から家庭用のビデオカメラの開発・販売に本格参入。動画の分野で画像処理やレンズの技術を培ってきたという自負があった。
パイオニアに
しかし一瞬の映像を切り取る写真は勝手が違った。光のまばゆさや影とのコントラストなどをデジタルでいかに「表現」するか。
「現場は常に殺気立ち、開発部門は不眠不休で絵づくりに没頭していた」。当時、開発に携わっていたパナソニックの山根洋介・イメージングネットワーク事業部長は振り返る。大阪・門真にあった開発部門のフロアは、午前0時を過ぎても、明かりが消えない日が続いた。
中村氏の大号令から約1年後の平成13年11月。光を表す「LUMI」とデジタル技術を「MIX」(融合する)という意味を込めた初号機が国内外で発売された。だが「ブランド名が市場に浸透せず、もくろみより売れなかった」(山根氏)。
それでも次々と新技術搭載した新機種を発表し、突き進んだ。
15年11月に投入した機種では、手ぶれによる映像の乱れを軽減させる機能を薄型のデジカメで初めて採用する。シャッタースピードが遅くなる暗い場所でも高画質な写真が撮れるとあって人気を集め、ソニーなどが追随。ルミックスは「草分け的存在」として注目され始めた。
20年10月には、「ミラーレス一眼カメラ」を開発した。高画質なレンズ交換式カメラの代表格である一眼レフから反射鏡(ミラー)などを省くことで、小型軽量化を実現。デジカメの一大ジャンルに成長した。
スマホとの差別化戦略
パナソニックは、デジカメ市場の「黄金期」と呼ばれる22年度に世界で約1060万台を販売。シェアは10%に到達した。
しかし、スマホの普及でデジカメは強い逆風にさらされる。カメラ映像機器工業会(東京)によると、デジカメの国内外出荷台数は、22年の1億2146万台をピークに、27年は3540万台まで落ち込んだ。
各社は販売減を少しでも食い止めようと必死だ。オリンパスは、水中で自撮りができるデジカメを投入するなど機能面を強化。高付加価値戦略でデジカメの性能にこだわりを持つ消費者を離さない戦略だ。
パナソニックは、画質に徹底的にこだわった機種などでスマホとの差別化を図っている。26年4月には、写真とともに、フルハイビジョン4倍の解像度の「4K」動画も撮影できるミラーレス一眼カメラを発売した。販売計画(同年度)の倍以上の売り上げを記録し、プロの写真家からの評価も高い。
デジタル機器評論家の麻倉怜士氏は「ユーザーに分かりやすい視点で、スマホにはない技術力を上手にPRできるデジカメが将来、生き残る」と指摘する。次の15年につなげるため、スマホとの差別化戦略のさらなる強化が求められそうだ。
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