JR東海、新幹線の車掌減員 検札廃止で働き方改革第一歩 日勤専門の新設も

 
JR東海の新幹線N700系

 JR東海が、2018年3月に東海道新幹線の乗務体制を大幅に見直すと発表した。「のぞみ」「ひかり」「こだま」の各列車で、出発から終点まで通しで乗り組む車掌を3人体制から2人体制に減らすのが主な内容。同社が昨年踏み切った「指定席の検札廃止」は、この施策に向けた布石だった。一方で、業務が集中する区間に限り乗務する「巡回担当車掌」を新たに設ける。柘植康英社長は「『社員の多様な働き方』を実現する改革」だと自負するが…。

 当初の狙いは

 指定席の検札廃止はJR東日本や西日本が2000年代に先行。東海は遅れて昨年3月に踏み切った。

 当初、その狙いは「検札業務を軽減して車掌の車内巡回を強化し、セキュリティー向上につなげる」こととされた。乗客1人が巻き添えで命を落とした車内焼身自殺事件(2015年6月)が発生し、パリ同時多発テロ事件(同11月)をはじめとするソフトターゲットを狙ったテロへの対策強化も急務となっていたからだ。加えて「乗客のくつろぎ向上」「限られた指定席の効率的な活用」「収益アップ」といった効果も見込める“一石四鳥”の施策とも指摘された。

 だが、さらに“その先”があったというわけだ。

 「車掌2人体制」を発表した昨年12月21日の定例会見で、柘植社長は「車内検札の廃止で業務に余裕が生じている(ため可能になった)」と説明した。一連の施策がリンクしていることを示唆した形だ。

 ただ、余裕が生じているとはいえ、マンパワーが減るのは間違いない。いざというときの対応力が落ちはしないのか。

 その対策として同社は、来年3月の「2人体制」開始に合わせて乗務員の携帯端末を8年ぶりに刷新し、車内発券のスピードアップや、異常時の情報配信の効率化につなげる。約1260台で、投資額はシステム改修費も含め約37億円。

 また、グリーン車の接客や車内巡回などを担当しているパーサー(JR東海パッセンジャーズ社員)を訓練し、新たに異常時対応の役目も付与する。

 乗務チームの編成方法も改革する。新幹線の運転士・車掌約1670人は5つの運輸所(東京第1、東京第2、名古屋、大阪第1、大阪第2)に配属されており、乗務する列車ごとに組み合わせが変わっている。

 来年3月以降は同じ運輸所に所属する運転士・車掌同士でチームを組み、また勤務開始から終了まで同じチームで乗務するようにする。同じ職場で日々顔を合わせる乗務員同士が一日のチームを構成することで、異常時などにスムーズな連携がとれるようにするのが狙いだ。

 17年度中に全車両の9割に防犯カメラを設置し、非常ボタンと連動させるなどハード面の対策も進めている。

 こうした施策を重ねることで「乗務員を減らしてもセキュリティーレベルが下がることはない」と、柘植社長は強調する。「車掌2人体制」の導入に向け、同社の4つの労働組合と協議を進めている。

 リニアにらむ?

 では、新設する「巡回担当車掌」とはどんな役目を果たすのか。

 JR東海の説明によると、列車の出発直後、検札業務や乗客への乗り換え案内などが集中する東京-新横浜間や京都-新大阪間などに限定して乗務し、文字通り車内巡回を担当する。年末年始やお盆、大型連休などの混雑時にも柔軟に配置するという。

 カギとなるのは、「日勤専門」ということだ。鉄道員には付き物の「泊まり勤務」がない職掌を新設することにより、出産直後や小さな子供を抱えた人など、不規則な長時間シフトに従事することが難しい社員も新幹線への乗務を続けることが可能になる。従来はシフトがやり繰りしやすい駅勤務などに移る必要があった。

 東海道新幹線の乗務員約1670人のうち、女性社員は約240人と、全体の7分の1を占めるまでに増えている。育児は女性だけの仕事ではないが、巡回担当車掌の新設により「多様な働き方を実現する」(柘植社長)ことは、女性乗務員の存在感が増す中で必要な措置だった。

 さらに深読みすれば、10年後の2027年に迫るリニア中央新幹線(東京-名古屋間)開業をにらみ、社員配置の柔軟性を高めていく取り組みの一環とみることもできそうだ。(山沢義徳)