WH、工期遅れで経営悪化 スリーマイル島事故で原発途絶え 名門企業の技術力低下

 
ウェスチングハウス・エレクトリックが米ジョージア州で建設中の原子力発電所

 【ワシントン=小雲規生】東芝の米原子力子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)は1957年に世界で初めて加圧水型(PWR)原発の商用化に成功した名門企業だ。しかし、コストダウンを狙って導入した新しい生産方式の運用に失敗。米国の原発事故以降、20年間にわたり、原発新設が停滞したこともあり、技術力が低下したとの指摘もある。

名門の傲り

 1886年創業のWHは米国を代表する重電メーカーだ。世界で運転中の原発のうち約半分で、同社の原発技術が利用されている。2005年には出力拡大と建設コスト低減を目指して開発した次世代原発「AP1000」が米原子力規制委員会(NRC)の承認を取得。現在、米国で4基、中国で4基の建設が進む。

 しかし米国で建設中の4基は12年の認可後、いずれも工期が大幅に遅れている。ジョージア州のボーグル原発3、4号機は、完成時期がそれぞれ19年と20年と当初予定から約3年半ずれ込んだ。サウスカロライナ州のV・Cサマー原発2、3号機も当初計画から2~4年の遅れて、20年に完成する予定だ。

 遅延の背景にはAP1000で強化した「モジュール生産方式」があるとされる。格納容器など、原発の構造物を協力企業の工場で分割生産し、現地で組み立てるという手法だ。WHは「工期短縮や品質向上につながる」としてきた。しかし現在建設中の4原発では、工場からの納入遅れが問題化している。

20年の空白

 こうした納入遅れの背景には、1979年のスリーマイル島原発事故を機に米国で原発の新設計画が途絶えたことがある。原発に詳しいウィスコンシン大学のトッド・アレン教授らは「現在、AP1000の建設に関わる企業は実際に原発を作った経験があるわけではない。また、原発建設で働いた経験があるエンジニアや作業員もとっくに引退している」と指摘する。

 現在米国で運転中の原発100基のうち、テネシー州のワッツバー原発2号機は2015年10月に運転免許が下り、16年から営業運転を始めたばかりだ。しかしその次に新しい原発は96年に運転を始めた同原発1号機で、米国の原発建設には20年もの長い空白期間があったことになる。

 長いブランクにより、WHの技術力が損なわれたとの指摘も少なくない。

技術の劣化

 WHが南部サウスカロライナ州で建設中のV・Cサマー原発2、3号機。関係者によると、原子炉格納容器の設置に向けた作業で、ある作業員が土台のコンクリートに穴を開けようとした場所に障害物があったため、30センチ程度ずれた場所にチョークで目印を描いた。実際に穴を開ける場所と目印は離れていることを、交代した作業員に引き継がなかったため、間違った場所に穴を開けてしまった。そうした単純なミスが多いという。

 WHの工事が難航している原因について東芝は、東京電力福島第1原発事故で米国でも規制が強化されたためと説明した。だが、長い間、原発建設の仕事がなく技術が劣化した。「福島事故がなくても状況は変わらなかった」(政府関係者)との指摘は根強い。