■炭素繊維が向上させる構造物のパフォーマンス
炭素繊維(カーボン・ファイバー)の特徴は、金属と比べ軽く、金属よりも強度があること。さらに小さな部品から航空機まで、あらゆる構造物に適応する柔軟性をもつ。これほど優れたカーボンであるが成形は容易ではない。築き上げた加工技術と設備、熟練した職人などいくつかの要素が不可欠となる。多くの実績をもつ東レ・カーボンマジックを訪ね、その技術力とカーボンの未来、同社の今後の事業展開などを探ってみた。
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■用途広がるカーボン成形品
東海道新幹線の米原駅から車で6分、名神高速道路・米原インターチェンジに近い工場団地の一角に東レ・カーボンマジックの本社工場がある。最初に出迎えてくれるのが、マニアなら飛びつきそうな同社が車体を製造したカーボン製のレーシングカー。超低重心のボディーが速さをイメージさせる。同社が製造したカーボン製だ。
軽量で強度を必要とするレーシングカーだけにカーボンは必須の素材だ。また、東北新幹線E5系「はやぶさ」グランクラスのシートもここで製造されている。高速鉄道車両ゆえの軽量化に加え、部品との一体化や新しいデザインコンセプトの導入を図るため、カーボン成形品が採用された。もちろん、同社が製造する。
このように最先端素材としてカーボンの利用は広がりを見せているが、その歴史は意外にも古くから身の回りで使われていた。約40年前からゴルフシャフト、釣竿、テニスラケットなどスポーツ用のアイテムとして利用され、現在はロードサイクルなど高級自転車から航空機ボーイング787にまで一般的に知られるようになった。ただ、一枚ずつカーボンシートを積層する作業など、大半は手作り。