だが、番頭のみが責を問われる判断には、理不尽さもつきまとう。報道陣からは「晩節を汚すという言葉を知っていますか」と、ゴーンに引責辞任を迫る声まであがった。
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大荒れの会見から1年あまり。今も志賀は恨み節ひとつ口にしない。日産社員も「ゴーンが日産に来て以来、志賀からゴーンの悪口は一度も聞いたことがない」と口をそろえる。「ゴーンを守ることが日産を守ること」という、志賀の番頭哲学の表れだ。
志賀は副会長となったが、代表取締役の肩書は残った。この処遇から、カリスマと番頭の2人の信頼関係が垣間見える。
「わたしの役割は、現経営陣のサポート役。自ら表だってマスコミの前に立たないようにしている」
志賀は表情を変えずに、こうつぶやいた。
《尚、アンディ・パーマー氏は退任し、他社のポストに就く予定です》
今年9月2日に日産自動車が配布したプレスリリースには、こんな一文が忍ばせてあった。その内容は、アストン・マーチンの最高経営責任者(CEO)に移籍するパーマーの退職よりも、後任のルノー副社長に主眼を置いたものだった。
副会長の志賀俊之から商品企画などの重要任務を引き継ぎ、ナンバー2の一人だったパーマーの退任にしては、あまりにもそっけない対応だ。それは、志賀の退任で生じたきしみかもしれない。
日産では幹部の離脱が相次いでいる。3月にはルノー・日産連合の広報責任者が、7月には高級車ブランド「インフィニティ」の責任者が、それぞれ他社に移籍した。主要幹部が次々と日産を去る現状に対し、15年あまり続く「ゴーン体制の長期化の弊害」との憶測も飛び交う。