想定外の発言に戸惑うスタッフの中で、田中は次の一手に考えを巡らせていた。吉田の思いが込められたこの発言を、新しい働き方の普及に結びつけられないか。田中は市商工観光課マーケティング専門官の田鹿倫基(30)と新たな施策に向けて、膝詰めで協議を始めた。
自治体にとっても、地元の就労促進は地域活性化に大きく資する。「20万円稼げるように、われわれがノウハウを提供します。市も協力してほしい」という田中に、田鹿は快く応じた。
「月20万円以上を得られる市民を共同で育成」
田中は、こう銘打った就労支援プロジェクトを市と共同で開始した。今月16日には3人の支援対象者が公募で決まり、インターネットを使った効果的な仕事の受注などを学んでいくという。
◇
田中は東京大学法学部を卒業後、就職氷河期といわれた1999年にトヨタ自動車に入社した。4年間勤めた後、外資系コンサルタント会社A.T.カーニーや、テレビ通販最大手のジュピターショップチャンネルに転職し、キャリアを重ねた。クラウドワークスは5つめの職場だ。
終身雇用が根強く残る日本だが、田中は転職でステップアップする欧米型のキャリアを重ねてきた。その中で群衆(クラウド)に外部委託(アウトソーシング)することから「クラウドソーシング」と呼ばれる新しい事業と出合った。物事の価値を高めるのは、田中の得意とするところだ。
田中は、大学4年の採用試験でトヨタの面接官に自分の長所をこうアピールしたという。
「私はゼロから1を生み出すことはできない。でも1を10にしたり、100にすることには自信があります」