クラウドワークスは翌年、東証マザーズへの上場を控えていた。資金繰りには追われながらも、理念を追い求めてきたベンチャー企業が、上場を機に変調をきたすケースは少なくない。
コンサルティングだけでなく、事業会社でも経験を積んだ田中ならば、上場をゴールとせず、さらなる成長に向けた施策を実行してくれると見込んだのだ。
次の転職は、自ら動くのではなく、誰かに請われて新たな職に就きたい。そう思っていた田中は、その場で移籍を了承した。
◇
「労働市場の5%超がオンライン化されれば、われわれの扱う市場は10兆円超になる」
株式上場に先立ち、会社幹部が機関投資家に対して、事業内容を説明する「ロードショー」。吉田のよどみない答えに、当初は険しい表情だった投資家らも、次第に身を乗り出した。
クラウドワークスは、上場直前の決算が赤字だったため、投資家らの質問は、どうしても厳しいものになりがちだった。投資家らの不安を解きほぐした答えのベースは、田中が作成した「今後20年で、働き方はこう変わる」という資料だった。
吉田の意を踏まえて、将来のあるべきビジョンを田中が描き、現場に強い吉田が具体策に落とし込む。議論に議論を重ね、中長期戦略を練り上げた。「『仮説を立て、それを検証していく』というコンサルの経験が大いに役に立った」と田中はいう。
吉田の下で21世紀の新しい働き方を世に広める。田中は自らの職歴を振り返り、こう言った。
「この事業をやるためにこそ、自分は今までキャリアを歩んできた」=敬称略
◇