ところが、従来の缶コーヒーの製造過程で、この2つの成分は取り除かれていた。豆の粒子は雑味や後味の悪さの原因となり、オイルは見た目の悪さから品質への不安感を与えてしまうからだ。
「上司からはよく『ボスにとらわれるな、お客さまを見ろ』と言われた」。伊藤さんは缶コーヒーづくりの常識を捨て、2つの成分を中身に残す製法に取り組んだ。高級なコーヒー豆を瞬間凍結させることで、通常の挽き豆の10分の1から30分の1まで細かく粉砕することを可能にした。この「微粉砕コーヒー豆」を使って複雑な味わいを達成した。自社の専用焙煎工場「サンカフェ」では、深煎りしたコーヒー豆からオイル成分を抽出して加えたほか、焙煎方法を工夫し、後味のキレを良くすることに成功した。
生豆に火を入れる焙煎は、コーヒーの品質を決める重要な工程。釜の温度と加熱時間のわずかな違いが味を大きく変えてしまう。サンカフェは01年に設立され、さまざまな焙煎に関するノウハウを蓄積してきた。鵜飼さんは「この工場がなければ今回の商品はできなかった」と言い切った。
「ドリップコーヒーの味」を追求した缶コーヒーは、有名カフェの店主らからも絶賛された。発売前に試飲した「カフェ・バッハ」(東京都台東区)の田口護店主は「味の切れが良い。缶コーヒーもここまでクリアな味を出せるようになったことに驚いた」などと、感想を述べた。伊藤さんは「率直にいただいた意見にものすごく感激した」と振り返った。
主力ブランド「ボス」の開発を通じ、メンバーには「消費者の真の要求をつかみ、ピンポイントで攻める」という意識が浸透してきたという。10年入社の若手ながら、さまざまなボスブランドの開発に携わってきた伊藤さんは「まだ完成されたものではないと思っている。これからも焙煎やコーヒー豆の選定など、技術を磨いていきたい」と気を引き締めた。(鈴木正行)