《8年間で43億リットルの水を創出》
「清潔な水の確保」と「メジナ虫病の撲滅」は、「1L for 10L」プログラムの大きな活動目的だ。
日本からの寄付によって、これまでに手押しポンプ付の深井戸を80基も作ってきた。ただし、ボルヴィックの支援活動は井戸を作るだけではないという。
「ユニセフとの約束は、井戸のメンテナンスを10年間続けることと、現地でメンテナンスできる人材を育成することも含まれています。井戸を清潔に保たなければ、使い続けることはできません」
ただ水が生まれればいいのではなく、その後も安定して使ってもらえる環境を作ることが彼らの任務なのだ。木村氏は「おそらく10年続けば、その先はそれぞれ現地で管理できるだろうと思っています」と自立も視野に期待する。
深井戸80基のほか、これまでに壊れたまま放置されてきた手押しポンプ付の井戸169基を修復。コミュニティなど規模の大きい場所には、ソーラーパネルを利用して電動で水を汲み上げる給水器を16基も設置してきた。木村氏は「ユニセフが作っている井戸の中のほんの一部ですが」と謙遜するが、これらの井戸が累計で43億リットルもの安全な水を生んできたことに「少なくとも8年間かけて蓄積してきたことが反映されていると思います」と実績に笑顔を見せた。
木村氏はこんなデータも教えてくれた。マリにもたらした莫大な水が、メジナ虫病の発生件数の低下に貢献しているのだ。
「2006年は329件。メジナ虫病の発生件数は毎年のように300件を超えていましたが、近年は10件前後に減っています。井戸ができた周辺では、発生の報告はありません。井戸が増えるごとに発生件数は下がってきており、一つの目標に挙げていたことが達成に向かっている実感はあります」
《支援がもたらしたマリの生活の変化》
井戸がもたらした変化はこれだけにとどまらない。木村氏がこれまでの活動の中でも一番大きな喜びとして挙げたことは「マリの子どもや女性の就学率が大きく上がったこと」だという。
「井戸がない頃は、子どもが一日に何度も水がある所まで往復していましたが、家の近くや学校に井戸ができることで水汲みの仕事から解放され、学校に通えるようになったのです。同じように、水汲みをしていた女性も井戸をきっかけに就学率が改善しました」
問題が一つ解消すると、好影響が連鎖して井戸を中心に新しいサイクルが始まる。「学校に井戸ができて給食を作り始めると、食べ物を目当てに学校に行くようになります。これも水汲みとは別に、就学率が向上している理由です。さらに、帰宅した子どもが学校の話をすると、親も教育に興味を持つようになりPTAができるのです」。