役員報酬の多寡が話題になるたびに、思い出す社長がいる。日立製作所の第5代社長を務めた三田勝茂氏(故人)である。日立は三田氏が社長時代の1982年にニューヨーク(NY)証券取引所に株式を上場した。NY証券取引所では、上場時の最初の買い注文は当該企業のトップが入れるのが恒例だった。三田氏の買い注文は1000株。当時の株価で計算すると、日本円で約50万円だった。これに大勢のフロアトレーダー(立会場で売買注文を執行する人間)らがビックリ。「日本は大企業のトップといえども、蓄財が薄く、報酬が少ないのだろうか」とのささやきがあちこちで交わされたという。
日立OBのSさんによると、「日立は伝統的にケチな会社。人件費の抑制にいつも気を配っていた。三田さんは範を垂れたのだろう」と話す。「給料は安いが、家族主義が強い会社だった」とも振り返る。日立の役員報酬に対する自制機運は今も痕跡を残す。15年3月期のソニーのCEO報酬と、一般従業員の平均的給与の格差は23倍強。同じ期の日立の同倍率は15倍強だった。