今年に入り、海外で評価の高い白ワイン「イセハラ」を製造している勝沼醸造(山梨県甲州市)との協業話が持ち上がった。同社は甲州産ワインを海外に広げようと積極的だ。「日本の優れた物産や文化を紹介する発信基地としての役割を担いたい」という、帝国ホテル東京の考えとも一致する。
ただ、両者にはほんの少しの隔たりがあった。5月、伊藤さんら帝国ホテル東京関係者6人が甲州市の本社を訪れたとき、勝沼醸造の役員から「職人にとって、出来上がったワインは子供のようなもの。それを理解して話を進めてください」と、くぎを刺されたからだ。伊藤さんは、生半可な思いでワインを扱うことはできない、と改めて覚悟したという。
7月、伊藤さんと李さんは再び勝沼醸造を訪れ、同社の有賀雄二社長らとともにブレンド作業に入った。ところが、「当初、華やかな香りのベースとして期待していた原酒が、『香りがなくなった』として使えなくなった。白紙の状態からブレンドを構想し直すことになった」(伊藤さん)。2人は、さまざまなブドウ畑からつくられた原酒から十数種類のブレンド比率を考え、一つ一つテイスティングを重ねて検証した。しかし、「コクがあるが後味に余韻がない」など、理想の結果になかなかたどり着かなかった。
「この香りでは、イメージが違うな」。思わず口を突いた李さんの言葉に、勝沼醸造側の一人が「うん、駄目だね。これは違うよ」と応じた。原酒の配合の割合や、原酒が時間を経てどう変化するかなど、ブレンドに必要な助言をしたのだ。李さんは「おいしいものをつくってやる、という気持ちでお互いが一つになった」と感じたという。納得のいく比率を選び終えたとき、当初の予定時間を大幅に超えていた。