赤ちゃんのため母親のために、真心込めて対応する「エンゼル110番」のオペレーター【拡大】
とはいえ、現実は生やさしいものではありません。20年たってもなお、森永乳業に対する不信感がぬぐい去られていないのが実態でした。事業化に向けて森永乳業のさまざまな部署の方々と話し合いを重ねても、「被害者家族から激しい怒りの声、怨嗟(えんさ)の声が必ず届きます。その罵声に耐えられますか」と、私たちに問いかけるのでした。
逃げるわけにはいきません。森永乳業のために覚悟を決めました。電話口で苦情や罵声に対応するスタッフが一番、大変でした。準備のため森永乳業に通い、ミルクの基礎知識から、事件のこと、被害者の怒りをどう受け止めるか、企業理念など、何カ月にもわたり研修を受けました。スタッフは森永乳業の社員になったつもりで、全て受け止めることを心掛けました。
◆抱き合って喜び
1975年5月、「エンゼル110番」がスタートしました。スポンサーの社名は入っていませんが、エンゼルと付けば、森永乳業ということがおのずと分かるはずです。さまざまな声に真摯(しんし)に応えました。なかには被害者からの厳しいクレームもありました。1年半がたったころ、ヒ素ミルク事件でお孫さんを亡くされたという被害者代表と名乗る一人の男性から、こんな電話がかかってきました。