3つ目。燃費でアクアを越えるのも苦労したものと思われる。これもおそらく3気筒エンジンがポイントになっている。4気筒に比べて、フリクションの少ない3気筒エンジンは低燃費である反面振動面で不利だ。しかし発電専用にすれば、上述の様に回転域を限定して使えるため、振動のネガが出にくい。そしてそれは同時にエネルギー効率の最も良いところだけを使ってエンジンを稼働させられるということでもある。アクアの場合エンジンのより広い範囲を使わなくてはならない上に、その結果振動を抑制するために4気筒を選んでいる。e-POWERはそこに勝機を見出したわけだ。
最後に4つ目だ。モータードライブの価値の提案。これこそが日産が提案したかったノートe-POWERの核心的価値だろう。モーターがエンジンと最も違うのは、モーターは静止していてもトルクを発生でき、しかもその時に最大値を発生する。そのトルクはフルに発揮させたらタイヤが煙を出すレベル。もちろん市販車をそんな仕立てにするわけにはいかないので、電子制御でトルクをコントロールしている。その精度は1万分の1秒だと日産は豪語する。逆に言えば、立ち上がりからの過剰な能力をエンジニアが刈り込んでいることであり、それは発進加速を人為的に理想の形にデザインできることを意味している。当然、気持ちの良い加速が可能になる。そしてこれこそが、リーフの顧客からフィードバックされたモータードライブのメリットである。
アクア、デミオと戦うための戦略的な価格
日産は電気自動車の価値の未来形としてのスマートグリッドを堅持しつつ、e-POWERでは、クルマ本来の楽しみとしてのモータードライブを再提案した。それは気持ちの良い加速と、アクセルひとつでクルマを自在にコントロールできるワンペダルドライブである。
すべて有り物でまかなったとは言え、クルマの構成要素の中で最も高価な動力装置を2つ搭載すれば価格的にはどうしても高くなる。しかし先行するアクアとこのクラス唯一のディーゼルを搭載するデミオが170万円台で火花を散らしている以上、おのずとそこに価格を合わせなくてはならない。ノートe-POWERも最廉価モデルを約177万円としている。ただしアクアのシステムは先々代のプリウスのお古。とっくに開発費を回収し終えたユニットだからこそ安く投入出来ている。「これで採算が合うのか?」という問いに、日産の担当者は「とにかく数を売ることです」と答えた。
最後に公平を期すために、問題点も書いておく。ノートe-POWERには改善すべき点もある。ドライバーのポジションも改善の余地があるし、せっかく広々としたリヤの空間もリヤシートの背もたれの倒れ過ぎや座面の前上がり角の不足、さらにクッションの前端部のウレタン材の硬度不足で残念なことになっている。
しかし、リーフで切り拓いた「モーターの楽しさを伝えたい」という明るく前向きな目標が明確にある。そういう未来志向はとても気持ちよい。日産はこれからも「電動化」と「知能化」という2つの柱を軸に技術的チャレンジを続けていくと言う。今回の企画書を見てそれはとても応援したい気持ちになった。
日産自動車「ノート e-POWER」商品企画書
「これは、商品についての詳細がほぼ決まり、発売前に社内での商品理解を進めるために使ったものです。企画書を作るときのポイントとしては、シンプルにメッセージが伝わるように、ポイントを絞ってつくっています。技術的な説明をするパートでは、ベネフィット(利点)を伝えるときは必ずエビデンス(根拠)としてデータを付けています。また商品説明のパートでは、できるだけお客さまの言葉や価値で書くようにというのはいつも心掛けています。例えば『加速がいい』と単に書いたら、読んだ人は『それはなんのため?』と思いますよね。なので、『静か』ではなく『会話が弾んで笑顔になるクルマ』といったように、お客さま視点の言葉や表現になるようにしています。『ブレーキがよく効くよ』とか『運転がラクになるよ』などですね」(日産自動車 日本商品企画部主管 谷内陽子氏)
日産自動車「ノート e-POWER」商品企画書
(池田直渡=文)
【試乗インプレ】充電不要! ガソリンで走る「電気自動車」 日産ノートe-POWERを試す(PRESIDENT Online)